補修(木杯)

どこで、誰が落としたのか知らないが、持ち回りだという全国漆器展の桂宮杯の裏側に入ったひび割れを補修することになった。最初、O氏がボンドで割れを直し、朱をその上に塗ったが、朱が合わなかった。
直径60cmほど、高さ20センチ余の木杯は、A社の作業場に有り、研ぎ・塗り作業はそこで行う・・・近い色の朱に塗ることが、依頼主の要請である。
 ⇒塗って15年ほど経っている朱に合わせるのは、朱が徐々に明るく変化していく漆の特性からいって、実際は無理な(無意味な)話ではある。
   ひび割れの補修法も、正しくない。 高蒔絵・受賞歴などが描いてあるから、どうしようもない面もあるが。
朱を練ったり、色を調整するのは、砂田において行う。

(下へ)

2002.1.8(火)

・ひび割れを埋めたところから、端までの三日月形に見える部分だけを塗り直す方針を立てた。
・境は、指先でソッと均し、段を消す・・・磨いて目立たなくするという方針。
・表は蝋色仕上げ、裏は塗り立て仕上げであるが、補修だから仕方がない・・・何でも、最初から作っていく方がうまくいくし、楽である。
  ⇒表側にも亀裂が走り、布でどうにか押さえている状態。
   裏側にしたって、彫って、刻苧で埋め、部分的でも布を貼るべきだろうが、、、
・朱の蝋色から判断して、本朱か、洗朱の赤口を塗ってあるが、刷毛目の跡がないということは、硫化水銀朱を使っていないことを示している。もしくは、王冠朱などと混ぜて使っているといえる。
  ⇒重い水銀朱は、乾くまでに少し分離するので、必ず濃淡の筋ができる。
・裏の塗り立ては、見事としか言いようがないが、あちこちに、各地で補修した跡が見える。

塗り直す部分より少し広めに、静岡炭で研ぎ、#1500ペーパーで目を細かくする・・・生漆を摺りこみ、拭き切る。
王冠朱(本朱)を30gを約1時間練る。10gの朱合蝋色漆と練り、後で17gの日本産木地呂漆を混ぜる。
 *付けをとり、乾き具合と、発色を見ることにする(寒いし、ファンヒーターをたいて、10℃ぐらいにしかならない)。

1.9(水)

*付けの結果(夕)・・・a 4℃,73%ほど-厚いところは縮み、少し黒めに乾いていた。
          b 2℃,80%ほど-厚いところは表面だけ皮が張り、黒っぽく乾いていた。
         (湿度計は、両方とも、あまり正確ではない)
*1/20ほどの水銀朱(赤口と淡口を混ぜたもの-古いので乾きが遅くなっている)を混ぜる。
   ⇒付けをとる・・・昨日と同じ場所の他、2℃の風呂の一番上の棚(c)にも一つ置く。

1.10(木)

*付けの結果(夕)・・・a 9℃,75%−少し縮みが出かかる程度だが、発色は悪い・・・朝の内にもう締まっていた、、、
          b 6℃,70%以上だが、正確には分からない・・・朝、黒っぽく、縮んでいた。
          c bと同じ風呂の一番上の棚で、朝・夕・夜とも、全く乾かないが、色は良くない感じ。

*1.8に練った朱の漆分が強すぎたのか? 水銀朱の洗い朱赤口を数グラム、木地呂漆と練り、その後の漆の追加を止める。
 古い赤口・淡口も昨日に続いて混ぜ、色を明るめに、乾きを遅めになるよう調整する。
*付け代わりに、縄胎椀の裏側に塗る・・・cの位置の置く(但し、湿りを強化した  6℃,?%)

1.11(金)

*(朝)光ったまま・・・ひとつをbの位置に移しておく。
 (夕)5℃,75%以上  両方とも乾いていた。cに置いたままの方が、発色がよい(明るい)。

A社へ、前日合わせた朱漆を持っていき、8分刷毛で小中塗り。長さ40cm以上の三日月形の部分。
塗りとの境は、指で段を消した・・・小さい刷毛で消そうとしたが、うまくいかなかった。
*塗った後、この朱漆の方が明るかったが、できるだけストーブをつけて、温度と湿度を与えるようにしていると、5時間後くらいには、同じくらいの明るさになった。青息が僅かにかかる程度。このままいけば、塗った方が黒っぽくなりそうな感じがする。
*少し乾きが早すぎたと思われる。結果は4日後に分かる。木杯に塗ってあったのは、本朱だったと言えそうだ。
*粉も漆も砂田の所有物なので、朱漆は持ち帰る。
*刷毛は、A社に広重の赤毛半通しがある。3年程前まで、もう一人刷毛塗りをする人がいて、刷毛を共用していたが、都合が悪かった。

1.15(火)

*思った以上に、発色がよかった。本朱より僅かに黄色みが強い感じ。
*端付近に僅かに溜まったところが、中まで乾いていず、研ぐと取れてしまった。
塗った部分を研いでから、生漆を摺りこむ。

1.16(水)

王冠朱(本朱)を日本産木地呂漆で練る。今までの朱と混ぜる。
上塗りとして、三日月形のところと、端の一部を塗る。
*返しを取らなくても良いほどの厚さに塗ったが、念のため5回ほど返しをとる。
*1年前は雪が降りまくっていたのに、気温が10度を超え、その上、雨が降っていたので、乾きが早い。

1.17(木)

かなり黒っぽかったが、2、3日すれば、朱が出てくる感じに乾いていた。
*塗りとの境の段を指で消したのだが、消し方が足りなかった。
段とゴミ山を#1500ペーパーで軽く研ぐ。
*ストーブの上にやかんを置いて、温度と湿度を与えておく。

6時間ほど経つと、朝より朱の発色がよくなっていた・・・高台の外側の隅に修理の跡が残っているが、朝はその朱と同じほど黒っぽかったのだが、かなり明るくなっていた。
塗ってないところと塗ったところの段を静岡炭で研ぐゴミや刷毛筋も研ぐ。
ペーパー#1500で、段をなるべく目立たなくなるように研ぐ
灯油で薄めた生漆を摺り込み、拭き切る。
*王冠朱というのは、研いでも刷毛筋の濃淡が全く現れない・・・技術をあまり必要としない朱と言える。

1.18(金)

小さい静岡炭で、刷毛筋などを少し消す。
ペーパー#1500で、もう少し段を取りる。
クリスタル砥石#1500で、残りの刷毛筋などを消しながら、塗ったところを研ぎあげる。
灯油で薄めた生漆を摺り込み、拭き切る。

1.19(土)

極細コンパウンドで胴擦りする・・・塗ってないところとの境は、かなり目立ったままと言える。
*塗りなおしてない朱の艶が目に入り、白っぽいと磨けてないと錯覚してしまう。
ノンシリコン3Mで磨く。
灯油で展ばした生漆を摺り込み、拭き切る。
*この生漆が、何用なのかハッキリしないのだが、黒漆の蝋色なら何とかあがる。
 朱漆の場合はどうなるか、今回やってみるしかない。
 もし駄目なら、砂田所有の生正味漆を持っていって、やり直すしかない。

1.21(月)

朝・・・灯油で展ばした生漆を摺り込み、拭き切る。2回目。
夕・・・灯油で展ばした生漆を摺り込み、拭き切る。3回目。

1.22(火)

朝・・・灯油で展ばした生漆を摺り込み、拭き切る。4回目。
3時過ぎ・・・摺り落としをしてみる:ほとんど艶が上がらず。
     展ばさない生漆を摺り込む:温度と湿りを与える。
 *木杯を作ったときに塗ったのは、どういう漆なのだろう?
   キズがあったので、コンパウンドで胴擦りしても、光ったままだ:油入りの漆?

1.23(水)

摺り落としをしても、艶は上がらず、塗り境も目立つ。
ペーパー#1000、#1500で段を消し、クリスタル砥石#1500で研ぐ。
極細コンパウンドで胴擦り、ノンシリコン3Mで磨きこむ。
*このままのほうが光っている感じさえする。
*それにしても、元の朱は胴擦りだけで十分光る。
生漆をそのまま摺り込む。一日、温度と湿度を与え続ける。

1.24(木)

摺りを落とす・・・ノンシリコンで磨いたほどの艶が出る。
生漆をそのまま摺り込む。一日、温度と湿度を与え続ける。2回目。
 *結局、王冠朱は摺りの拭き切りをしなくても艶が出るということか。
 *元の朱が、胴擦りだけで艶が上がるということは、この朱を使えば、蝋色なんて簡単で仕方なくなる。
  何か変だと感じざるを得ない・・・砂田は、油入りの漆は使わない、素グロメ漆を使う。水銀朱を使う。

1.25(金)

摺りを落とす・・・かなり艶が上がる。
 *木地呂漆の透けが良く、元の朱より明るくなってしまった・・・一応、「これでよし」としようとなった。
生漆を摺り込む。3回目。

1.28(月)

摺り落とし・・・差が目立ちすぎる・・・最初の予想通り、朱漆を合わせるのは不可能ということだろう。
*所々に汚れのようなのが目立つ。磨いても、シンナーで拭いても取れない。15年ほどの汚れか?
 洗剤で洗うしかない?

1.29(火)

台所用洗剤で洗い、ティッシュで水分を拭き取る。
 *薄汚い感じはなくなったが、粘り気のありそうな汚れは取れなかった。

2004.1.5(月)

*午後から組合の新年会。また戻ってきた桂宮杯を見る。裏の修理した朱は、更に発色している感じで、本体の朱との差が広がっているのだろう。受賞組合の名が書いてあるので、全体を塗り直すわけにもいかない。

上へ

修理のページヘ

ホームへ