【無銘様よりのご指摘メール】

sir/ma'am問題に関するご指摘をいただきましたので、ご快諾を受けてここに掲示させていただきます。
文中の資料サイトからの引用部分について、ワタシの判断で訳をつけました。この部分に関する文責は全てワタシにありますので念の為。

yonetch様。
初めまして、HN無銘と申します。ネット検索をしていて、貴サイトの「ST翻訳概論」のページをたまたま見つけ、読ませていただいたのですが、「敬語」の項目に関して少々異論がございまして、メールいたしました。ぶしつけな指摘で恐縮ですが、お許し願います。
貴サイトには「軍隊の場合は、性別に関係なく「sir」を使うことが普通のようだ」とありますが、私が調べました限りでは、これは正しくないように思います(長くなりますので、詳細は本メールの最後に箇条書きにいたします)
ヴォイジャー1st season "Caretaker"におけるJanewayの発言は、正確には下の通りです。

Mr. Kim, at ease before you sprain something. Ensign, despite Starfleet protocol, I don't like being addressed as "sir". [Janeway]
【yonetch注】この"despite the Starfleet protocol"の部分、なぜかスッポリと抜け落ちていました。自分でもなぜそこを見落としたのかワケがわかりません(修正済)。

貴サイトの記述では省略されていますが、"despite Starfleet protocol,"という但し書きがついています。よって、「性別に関係なく「sir」を使う」と言うのは、あくまでStar Trek 世界内のルール(Starfleet protocol)と考えるべきでしょう。しかし、これは実際の軍のやり方とは異なります(下記の詳細3で指摘されています)。

突然のメールで意見するのは失礼と思いますが、「軍隊の場合は、性別に関係なく「sir」を使うことが普通のようだ」という記述は、読者をmisleadingするものと思いますので、修正されるほうがよろしいかと存じます。

あるいは、yonetch様が別の資料をお持ちのようでしたら、比較検討したく思いますので、ご教示いただければ幸いです。私の知る限りでは、女性士官が Sir と呼ばれるのは、映画「愛と青春の旅立ち」のラストシーンのみです。しかし、ここでは意図的に Ma'am でなく Sir にしているように思いますので、資料としては除外しました(後述の「補記」参照)。

長文失礼いたしました。 無銘 

<資料詳細> (1)アメリカ陸軍の ROTC(士官候補生課程)では、明確に女性には Ma'am を用いるよう教えています。

Male officers are address by "Sir", female officers by "Ma'am",, or you may address either by their rank and last name; i.e., "Major Smith".
【yonetch訳】男性士官は"Sir"、女性士官は"Ma'am"と呼ぶ。もしくは、階級とラストネームを使用する(例:"スミス少佐")。

出典:http://www.psu.edu/dept/armyrotc/customs.htm

(2)海軍・空軍・沿岸警備隊についても、同様に軍オフィシャルサイトに解説があります。いずれも上官に対する敬称として Sir/Ma'am を併記しています。女性も Sir と呼ぶルールならば、Ma'am は記載しないと思います。また、省略いたしますが、イギリス軍・カナダ軍についても同様のオフィシャル情報があります。
http://dolphin.upenn.edu/~nrotc/ns101/LESSON04.html(アメリカ海軍) http://www2.sjsu.edu/depts/AFROTC/cadet/reporting.html (アメリカ空軍) http://www.dirauxwest.org/saluting.html (アメリカ沿岸警備隊)

(3)SF Webサイト"SCIFI.COM" に元米陸軍将校の方が下記の意見を寄せています。

"Officers Aren't Always Sirs " (前略)Unless you are trying to insult the officer, you never call a female officer "sir." (中略) While sci-fi, specifically Battlestar Galactica and Star Trek, does not represent the modern military, they clearly borrow the rank structure and chain of command from today's military, why not borrow the correct form of address as well?
【yonetch訳】「士官、必ずしも"Sir"ならず」 (前略)敢て侮辱したい意図がないのであれば、女性士官を"sir"と呼ぶことがあってはならない。(中略)SF、特に宇宙空母ギャラクティカとスタートレックにおいては、現代の軍のやり方を反映していない。しかしそれでも階級構造や指揮系統は明らかに今日の軍のそれに倣っている。なぜ、女性士官の呼び方は正しく引用しないのだろうか?

出典:http://www.scifi.com/sfw/issue349/letters.html

(4)海兵隊員の方も、(3)と同様の書き込みをされています。
"Military Females Deserve Respect" (前略) During my six year in the Marines, you never addressed a woman officer as "sir." They were always addressed as "ma'am." Only male officers were addressed as "sir." In my encounters with Navy personnel, it was the same way.
【yonetch訳】「軍の女性にも当然の敬意を」 (前略)私は海兵隊に6年いたが、女性士官が"sir"と呼ばれたことは一度もなかった。必ず"ma'am"と呼ばれていた。"sir"と呼ばれるのは男性士官だけである。海軍士官と会ったときも、それは同じだった。

出典:http://www.scifi.com/sfw/issue409/letters.html

(5)まだ資料はありますが、量が多くなりますので省略します。ご要望に応じて、お出しできます。


<補記>
「愛と青春の旅立ち」(原題"An Officer and a Gentleman")に、下のシーンがあります。

Foley: Congratulations Ensign Seeger.
Seeger: Thank you, Sir.
Foley: Gunnery Sgt, Ensign Seeger...
Foley: ...Sir.

・海軍士官学校の卒業式のシーン。
・Foley軍曹(男性)は訓練教官で、Seeger新任少尉(女性)は教え子。
・教育課程では、SeegerがFoleyを"Sir"と呼んでいた。卒業したので、ここではSeegerの方が上官。

ここで最後のセリフで、Seeger(女性)が"Sir"と呼ばれています。ここでFoleyが言いたいのは、「学校では私が上の立場だったが、今は貴女が上官です。"Sir"と呼ばれるべきは、貴女なのです」ということです。ここで"Ma'am"でなく"Sir"にしているのは、"Thank you, Sir."という発言を踏まえて、「貴女に"Sir"を返す」という意味合いを示すためと思います。が、英文の細かいニュアンスの解釈には自信がありませんので、詳しい方がいらっしゃいましたら、誤りをご指摘いただきたく思っております。
【yonetch注】ワタシも根拠を探す過程でいくつか現代の軍が舞台となっている映画をみましたが、今のところ女性士官を"sir"と呼んでいる例は発見できていません(例えば、『トップ・ガン』『ア・フユー・グッドメン』では"ma'am"と呼んでいます)。『愛と青春の旅立ち』の方が特殊例であるという見解を、ワタシは支持します。