朱の上塗り

練った朱に、発色を良くする為と乾きを調整する為に、古い朱(乾かなくなったり、乾きが遅くなったもの)を
適宜混ぜる。付けを取って、再度調整する。

形の流れに応じたように刷毛を動かす・・・丸物は左手で回し、刷毛の右手は動かさない。
                         角物は左手で持ち固定し、刷毛の右手を動かす。
粗渡しをしながら、ムラをなくしていく。刷毛を少し斜め方向にして渡していく。
    たっぷりと刷毛に漆を取り、ムラなく置くようにして、無駄な刷毛の動きを無くす。
仕上げは、刷毛を途中で止めるのではなく、まだ流れが続いている感じで・・・
    スッキリとした切れ味のある塗りであること(刷毛は寝かせ気味にし、力は抜きすぎない)。
    ピッピッとした、リズム感のある刷毛の動き。
刷毛で一ヶ所仕上げる毎に、漆の入った茶碗の角で(ゴミを除去したガラス板でも良い)
    刷毛の両側の漆を拭う・・・厚すぎる塗りにしない為、またムラ塗りにしない為。

坂下先生の塗りは、無油の漆の塗り立てを基本にしているので、塗りの心構えは上記のようになる。
増村先生の塗りは、蝋色仕上げを前提にしている。「出来る限り薄く塗る」

完璧に研ぎあげた面に「出来る限り薄く塗る」為には、 [ 刷毛で漆を粗渡ししていては漆を練り回す事になるし、刷毛からゴミも出ることになるので駄目であり ]  箆で粗渡しする必要がある。
蝋色研ぎは、朱を生正味漆で時々固めながら進める・・・

増村先生の上塗り

頭では理解できる気がするだけで、実際にはなかなか出来ない。
塗りの厚さに関しては、刷毛が長い分、見た中では高岡塗りが一番厚塗りといえる。
坂下先生の塗りの厚さは、鳥の羽を尖らせたゴミ上げの先でつついてできる穴か、その倍位が限度。

塗りが厚いと朱の粉が下に沈んでいくが、その長さ(深さ)が、薄く塗ったときよりは長くなる。
発色をよくするためには、返しを取りつづける必要が出てくる。

古くなった朱のうち、黄口は完全に不乾になり、その上、流れが悪いままである。
赤口や本朱は、湿りを強くすれば何とか乾くし、流れは非常に良い。
漆には流れ(刷毛直り)が良いものと悪いものが有り、素グロメで流れの良い漆を探していくしかない。
同じ量の漆を使うとすれば、刷毛筋が残るより流れた方が厚塗りになる(有効な厚みで)。
刷毛筋が残る塗りの有効な厚みを、流れの良い漆で塗れば、少ない漆ですむ。

以下に部分毎の要点を書いていく(1993年第40回日本伝統工芸展[乾漆食籠」)。

合口(身の場合)
  刷毛に漆をつける・・・裏返して反対側の余分な漆をガラス板で取る・・・
  また裏返して、立ち上がり側に、はみ出ないように45°の角度で刷毛を動かす(塗る)・・・
  はみ出たのはクジラ箆で浚える・・・塗った隅を浚える(隅出し)・・・


  溜まりやすいので、最初から浚えておく。斜め上(内)より斜め下(外)方向へ浚える。

身の側面のボカシ
  まずボカシの所をしてかかる。
  主にしたい側(強くしたい側)から塗り始める・・・朱(横方向に線を決め、手前へ均す)
  1mm位間隔を空けて、もう一方の線を決める・・・黒(塗る部分に粗渡しし、均す)
  固めの五分刷毛(15mm)に朱と黒を半分ずつ、適量つけ(ガラス板で調整する)、
  揺すりながら均していく。
  柔らかめの五分刷毛に朱と黒を半分ずつ付け、二、三往復してボカス。
  *大きく暈したいときは、大きく揺すってかかる。
  *蝋色の暈しは、中間色を塗ってかかる。揺すりを多くする。朱や黒側からも
    暈しの方へ仕上げる。

◎2001年8月

硫化水銀朱の流れを良くするには、古い朱を混ぜるしかない。
少し上で書いたが、流れがよいのは本朱か赤口の古い朱である。
同じ朱同士で混ぜると、乾きも流れも良い朱になる時がある。それを温度と湿度の関係の中でうまく調合できるかどうかが腕の見せ所になる。
軽い朱である黄口、淡口の流れをどう良くするか。
重い朱である本朱や赤口と軽い朱を混ぜると、表面には軽い朱が出てくることを利用する。
練った軽い朱に、古い重い朱を同量ほど混ぜる。
塗り立てなら、それで通用する。蝋色はむらが出る。
蝋色仕上げは、練った朱を8割ほどにすれば十分である。      

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