A.D. 3001
 
 

     aspect  10
 

 エアコンのきいたリニアカーから最初に飛び出したのはタックだった。
 午前9時過ぎにアヤセから連絡を受け、しばしの居候をさせてくれているドモン
と共に病院に駆け付けたところだ。
「おいっ!待て、タック!」
 エントランスに大声を響かせ、ドモンがタックに飛びかかった。
「病院ん中、飛び回ったら危ねえだろうが!」
「離してくれ!誰にでもぶつかりそうなきみに抱え込まれているよりマシだ!」
「ぶつからなけりゃいいんだろーが!おまえだけ先に行かせてたまるかっての!」
「あぁあ、やっぱり、そういうことか」
 少しでも早くアヤセの病室に到着したいタックと、同じ気持ちの為に先を越され
たくないドモンの攻防は、とりあえずドモンが優勢となり、タックはドモンの腕に
しっかりと抱えられ、走る振動に合わせてシェイクされた。
 アヤセの病室では、まだ信じられないとばかりに、ユウリが、
「本当に、よく、あそこから抜け出そうって気になったわよね。私のこと、誰?っ
て顔、してたくせに」
と、刺々しいとも取れる言葉を投げかけていた。
 だか、その表情は、いつになく優しい。
 窓際に、シオンが立っている。
 光を浴びてきらきらと輝く髪が、眩しいほどだ。
 自分たちのことを何ひとつ憶えていないにも関わらず、研究所を抜け出し、こう
して会いに来た彼に、ユウリもアヤセも驚きつつ喜びの気持ちを抱いた。
「こいつ、明け方にはとっくにここに着いていながら、ばか正直に、面会時間にな
るまで俺に会うのを待っていたっていうんだぜ」
 あきれたような口調でありながら、アヤセも微笑んでいる。
 シオンは、親しい間柄でなければ聞けないような言われ方をされていると感じた
のか、はにかんだ笑顔で頭をかいた。
 と、その時、突然ドアが開き、タックを抱えたドモンが勢いよく入ってきた。
「シオン!」
「・・・あ・・!」
 ドモンを見るなり、シオンははっとした表情をし、そばに駆け寄った。
 一瞬、ドモンは、自分のことだけは憶えていてくれたのだと感激し、その身体を
抱きとめようと、タックをぽいと離して手を広げた。
 しかし。
「プロファイターの、ドモンさんですよね?!」
「は?」
「僕、ファンなんです、サイン・・・」
 いいですか?と、続けようと、ポケットの中からペンを取り出すシオン。
「ばっ・・・馬鹿っ!!」
 たとえ一瞬でも、勘違いをしてしまった自分が決まり悪く、また、目の当たりに
した記憶の無いシオンに情け無さを感じ、ドモンはたまらず怒鳴った。
 
 

 シオンの姿が消え、研究所が騒然とし始めたのは、午前8時に近い頃だった。
 自宅から研究所に出勤する途中で連絡を受け、慌てて駆け付けた所長は、開口一
番、モニター室担当者を怒鳴り付けた。
 その剣幕に、今後の自分の立場に不安を感じた担当者は、立ち止まりもせず廊下
を突き進む所長の後を追いながら、
「7時過ぎまでは、確かに部屋にいたんです。でも、引き継ぎの時間の前に全モニ
ターの確認をした時には、姿が映っていなくて・・・」
と、説明を始めた。
 しかし、所長は一向に歩を緩めず、聞こうとする態度すら見せない。
 それでも後を追う声は、自分がいかに職務に対して怠慢ではなかったかを必死に
なって印象付けようとした。
「カメラの追尾システムの故障かと思って、マニュアルに切り替えて部屋全体を見
渡したんですが、やはりいませんでした。それで、すぐに録画映像をチェックして
みると、特に変わった様子も無かったのが、7時21分に突然、画面がブラックア
ウトして、それは、ほんの数秒だったんですが、その後の映像から姿が消え失せて
いたんです」
 所長がようやく立ち止まった。だが、それは、シオンの部屋があるエリアに降り
る為のエレベータの前だからに過ぎない。
「他のカメラの録画映像はチェックしたのか?」
「は?」
「常時、モニターしていない防犯カメラがいくつもあるだろう!部屋を抜け出した
奴が、どこをどう通ったかくらいは押さえておけ!!」
 怒鳴りながらエレベータの操作パネルを平手で叩く。
 薄紫色のドアの前に立つ所長と自分に向いている防犯カメラを見上げたモニター
室担当者は、
「は、はいっ」
と慌てて走り去った。
「ふんっ」
 以前、逃げ出されてしまった時は、現在よりも所内の防犯カメラの設置数が少な
かったせいか、シオンの姿を確認できなかったが、実のところは今回も、録画映像
に姿が残っているかどうかを、さほど重要視しているわけではなかった。
 重要なのは、逃げ出されてしまった、という事実。しかも、以前よりも警戒し、
簡単に脱走できないように図っていたにも関わらず、だ。
 所長は仏頂面で、開いたドアからエレベータに乗り込んだ。

 シオンの部屋では、所長より一足先に訪れていたハルキが、一通り室内を調べて
いた。
 深夜に見た細工されたカメラは、何事も無かったかのように元に戻っていた。モ
ニター室に偽の映像を送っていた事実も、研究所のデータベースへのハッキングも、
証拠となるものは、何ひとつ残されていない。
 主人のいなくなった部屋で、定位置である作業机の下にちょこんと存在している
掃除ロボットを見つめ、ハルキは語りかけるかのようにつぶやく。
「前も、こうやって出て行ったんだろうな・・・。見事なものだよ」
と、そこへ、背後のドアが開いた。
「あ、所長・・・。おはようございます」
 所長の表情から、悠長に挨拶をしている場合ではないだろうと思いながらも、と
りあえず声をかけた。
 案の定、所長は挨拶を無視し、つかつかと歩み寄ってくる。
「おまえは、昨夜から泊まり込んでいたんだってな。最後に、ここに来たのはいつ
だ?シオンの様子に変わったところは無かったのか?」
 事前に気付けよ、と言わんばかりに問う。
「変わったところなど、ありませんでした。いつもどおりですよ。もっとも、論文
のほうがはかどらなくて、昨日は定時の検診をしたくらいで、シオンにあまりかま
けませんでしたけど」
 ハルキは、偽りの言葉をすらすらと並べ立てた。
 シオンに対して嘘をついていた時とは違い、微塵の罪悪感も感じない。それこそ、
おかしくなるくらいだ。
「記憶をリセットさせても・・・結果は同じでしたね」
 自分たちはシオンに負けたのだというニュアンスを含めて語りかけたが、所長は
取り合わず、
「人が、穏便に扱ってやろうとすれば、こうだ・・・」
と、焦点の合わない目でつぶやく。
「所長。どうされるつもりですか?」
「どうするも、こうするも・・・連れ戻すに決まっているだろう。どこへ逃げ隠れ
しようと、探し出して・・・」
「もうそろそろ、解放してやってもいい時期ではないでしょうか。彼なら、保護を
解かれても、希少なその身を自分自身で守っていけると思うのですが」
 この際、とばかりにハルキは申し出てみたが、所長が取り合うはずもない。
「おまえまで、そんなことを言うのか。冗談じゃない。今度こそ、永久に逃げだせ
ないように拘束してやる。この部屋には奴のクローンを住まわせて、一生、ここか
ら出る気はない、と言わせておくさ」
 そう言い放つと、ドアに向かって歩き出した。
「所長・・・!」
ハルキは、部屋から出て行く所長の後を追った。

 モニター室では、所内に設置してある防犯カメラの録画映像を、担当者がふたり
がかりでチェックしていた。
「滅多なことはないからよ、居眠りでも何でもできる楽な仕事だと思ってたのによ」
 所長に怒鳴られた担当者がぼやく。
「その、滅多なことになったら、アウトってわけだぜ。以前に、ハバード星人がい
なくなった時には、すぐ気付かなかったモニター担当がクビになってるってのに、
呑気に構えていたおまえがどうかしてるんだぞ」
「へいへい、どうせ俺は、お前と違って不真面目だよ。・・・はぁ。まったく、外
の生活に馴染めずに舞い戻ってきて、嫌な思い出も全部消したとかいうのに、同じ
こと繰り返してりゃあ、世話ねえよな」
 鵜呑みにしている、所長から説明されていた嘘の事情についてぼやきながらも、
とりあえず画面から目を離さない男に、もうひとりが相槌を打つ。
「だよな。・・・に、しても、なんか変だな・・・」
「何が?」
「いや、なんて言うか、こっそり抜け出すにしては、リスクの高い時間だと思わな
いか?」
 と、映像の時間表示を指す。
「部屋からいなくなったのが午前7時21分。結構、人の動く時間だぜ。8時勤務
の奴が食堂で朝飯食うのに、ほら、早めに来たりもする。俺だったら、逃げ出すつ
もりなら、たとえ見つかる覚悟があっても深夜を選ぶがな」
「・・・言われてみれば、そうだな。俺だって、どちらかといえば、そうするぜ」
「それに、もういいかげん、ここに姿が映ってもいい頃なんだが。あのエリアから
外に出る時には、必ず通る場所だってのに」
 薄紫色のドアのエレベータ前に設置してあるカメラの、午前7時以降からを時短
再生した映像に、一向にシオンの姿が映らない。一旦、巻き戻し、再生を繰り返し
たが、同じ結果に、ふたりは腕を組んで唸った。
「・・・ってことは、まだ収容エリア内に、こっそり隠れている・・・?」
「な、わけないだろう。所長に報告する前に、隅々まで調べたんだからな」

 後を追うハルキに一言も口をきかず自分の執務室に入った所長だったが、一転、
通信機の向こうには、立続けに声を届けた。
 事務的にと努めているようでありながらも、時折感情が垣間見える。
「居場所の見当は、いくつかつけているが、必ずしもそこにいるとは限らない。そ
うであれば、可能な限り広域に探索の手を広げて欲しい。それから、傷付けずに捕
らえるようにな。・・・ああ、麻酔銃なら使っていい。最適な薬品と使用量に関し
ては、すぐデータを送る。・・・そうだ、類似生命体といえど、地球人と全く同じ
というわけにはいかないんだ」
 通信機の向こうにいる相手をハルキは知らないが、私設警察隊を整備している企
業の責任者のようであるところから、それなりに誰なのかは見当がついた。
 依頼を伝え終えた所長は、すぐに相手方に送るデータの選別を始める。
 ハルキは立ちつくしたまま、所長の行動をただ眺めているだけだった。もはや、
所長に協力する気はないが、シオンへの執着心は何をもってしても押さえることな
どできないだろう、とも感じていた。
 そんな中、内線通信の着信音が鳴り響いた。
 通話ボタンを押そうとしたハルキを制し、所長がボタンを押す。すると、繋がる
やいなや、けたたましい声が聞こえてきた。
「所長!防犯カメラに、ハバード星人が映っていました!至急、モニター室に来て
ください!」
 所長は、その言葉に無言ではありながらも反応し、それまで選別していたデータ
を手早く送信すると、ハルキには目もくれず飛び出して行った。

 モニター室で所長を待ち構えていた担当者は、どことなく得意げな口調で、逃亡
中のシオンが映っている防犯カメラの録画映像を次々に再生した。
「見てください。これが、収容エリアの各階に行く為のエレベータ前のカメラです。
次に、部外者立ち入り厳禁の境となる廊下、そして、最後に映っているのが、我々
所員が通常、利用している西側の玄関で、時間は午前4時37分になっています。
同時刻に、部屋にいるままの姿が映っていますが、たぶん、何らかの方法で、偽の
映像をモニターに流していたんでしょう。私たちは、彼のいなくなった時刻に疑問
を感じまして、改めて映像のチェックを・・・」
 いかにも自分たちの手柄だとアピールする説明を、所長は聞き流し、映像の中の
シオンだけを食い入るように見つめていた。
 深夜から未明にかけては、ほとんど利用する者のいない玄関など、最大の難関の
はずの、ほ乳類系エリアの廊下を通り抜けたうえ、誰にも見とがめられることなく
そこまで辿り着いたシオンならば、もはや容易に出られて当然だった。
 しかし、映像の中のシオンは、人気が無いのを確認しながらも、すぐには外へ繋
がるドアを開けようとしなかった。何を思ったか、くるっと振り返り、こちらを見
つめる。
 シオンが見ているのは、防犯カメラのレンズ以外の何物でもないが、所長もハル
キも、たった今、そこにいる彼と目が合ったような錯覚を覚えた。
 シオンは、それをわかっているかのように、かすかに微笑み、別れの挨拶として
両手を小さく振った。そして、あろうことか、合間に投げキスをしてみせた。
 ハルキは、状況に不似合いな仕草に面喰らったが、深夜に対峙したシオンよりも
よほど自分の知っている彼らしいと感じ、苦笑した。
 しかし、すぐに、隣にいる所長が気になり、恐る恐る様子を窺う。
 案の定、所長は怒りに顔を紅潮させ、握りしめた拳を震わせながら、シオンが出
て行ってしまった後の映像を刺すように睨んでいた。
 シオンが研究所を出たがっていたのは、単に、窮屈な生活の中で募らせていた、
外の世界への好奇心や自立への憧れに過ぎないと思っていた所長は、たった今、自
分に向けられたシオンの悪意を感じ取った。
 どんな小細工をしようと、こうやって逃げられる、何度、連れ戻しても無駄だ、
と、シオンから宣言されたも同然だと受け止めたのだ。
 しかし、このままで終らせるわけにはいかない。
「ふん、せいぜい、短い自由を楽しむがいいさ・・・」
 氷のように冷たいつぶやき声だった。
 
 

 ユウリは、自分たちがシオンを取り戻す為にどんな行動をしていたかを、さっと
簡単に話してしまい、シオンに対しては、研究所からどうやって出られたかを詳細
に尋ねた。
 シオンはアヤセのベッドの端に浅く腰掛け、時折、ひざの上に抱いているタック
の頭をそっと撫でながら、記憶を失った状態で出会ったハルキの嘘の説明に不信を
持ったところから話し始めた。
 しかし、決してハルキのことを悪く言わず、かばってさえいるような口ぶりが、
ドモンには気に入らない。腕組みをし、むっつりと聞いていたものの、ついに口を
はさむ。
「そいつは俺たちのことも、まるごと騙してたんだぞ。その通信機だって置き忘れ
てっただけだろ。わざとのわけあるか」
「いえ、あの・・・」
 機嫌の悪いドモンにどことなく気後れしつつも、シオンは言い返す。
「廊下のセキュリティのことも教えてくれましたし、これもまだ、使用停止の処置
はされていませんから、やっぱり僕に持たせてくれたんだと思います。これのおか
げで、この病院に簡単に来ることができたんですよ。あ、タクシーの支払いも、勝
手にハルキさんの口座からの引き落としにしちゃったんですけど・・・」
 シオンの口調が、懺悔するかのような罪悪感を漂わせたものに変わると、タック
は間髪入れず、
「それは心配ない。彼らも、きみ名義の預金は放置していたようだから、そこから
使った額を振り込めばいい」
と、シオンが決して一文無しではないことを教え、多少、横道にそれかけた話を修
正する。
「しかし、僕は何よりも、ハルキには、きみの記憶の消去を強行しなかったことに
感謝するよ。時間保護局の設備を使えば、20世紀でのきみの体験に関する僕らの
認識を情報化し、きみの記憶として強制インプットできるが、きみ自身の実体験に
よる本当の記憶に比べれば、そんなもの何の値打ちもない。・・・もっとも、僕は、
きみの記憶が消去されてしまったと思い込んで、それを実行するつもりでいたんだ
が」
「タック・・・」
 シオンは、タックの言葉に、これ程までに自分のことを考えてくれているのだと
感じ、口元をほころばせた。
 だが、その嬉しそうな反応に、ドモンはつい、
「消去されたわけじゃねぇのに、なんで思い出せねぇんだよ!」
と、苛立ちをぶつけてしまう。
「ドモン!」
 ユウリとアヤセは、気持ちがわからないでもなかったが、単純に感情を表すだけ
では、初対面も同然のシオンからの心証を悪くするだけだろうに、との思いもあり、
とりあえずドモンをたしなめる。
 タックも、ドモンはシオンを責めたわけでなく、単なる質問をしただけ、という
装いで説明を始める。
「優秀なハバード星人も、記憶に関するシステムそのものは、シナプス結合の形成
によって、入力した情報を定着させる地球人とほとんど同じで、簡単に言えば大脳
辺縁系において、神経細胞から伸びている軸索から・・・あ、いや、もっと簡単に
言うと・・・正確な例えとは言えないが、外からの情報を次々に運び込まれる荷物
だとして、記憶するというのは、それぞれの荷物を持って無数に張り巡らされてい
る廊下を通っていくようなものなんだ。特定の記憶を思い出す、つまり目当ての荷
物を取り出すには、運び入れた時と同じ廊下を通らなければならない。ほとんど行
き来する機会がなく廊下の存在すらわからなくなるのが忘却、人工的な電気信号で、
取り出せるはずの荷物そのものを処分するのが記憶の強制消去だ。そして、シオン
が施された処置は、一定の期間に運び込まれた荷物を取り出しに行けないように、
そこへ通じるすべての廊下にシールドを張って行き止まりにしたようなものだ。こ
れでは本人の意志など関係ない。物理的に、思い出すことは不可能だ」
「んな・・・わかってら、わざわざガキにするような説明しなくても・・・」
 タックの延々とした説明を聞くうちに、最初の威勢が徐々に失せ、しおれていく
ドモン。
 感情と、その表現の間に、何の思惑もない。
 シオンは、心地のいい安心感に包まれた。媒体を通してしか見たことのないプロ
ファイターではなく、仲間として共に生きてきたドモンの心に直に触れているよう
な気がして、愛しささえ感じる。
 思い出してあげたい。
 脈打つ間隔に合わせて頭が痛み出す。それでもかすかに浮かべた微笑みをそのま
まに、シオンは言った。
「僕・・・皆さんを思い出そうとすると、頭が痛くなるんです。これって、神経を
刺激しているかららしいんですが、廊下を遮っているシールドを僕が壊そうとして
るっていうより・・・シールドの向こうの皆さんが、早く通らせろって、まるで扉
を叩いてる感じ、しますよ。僕も、僕の中の皆さんと、早く会いたいです」
 皆がシオンをみつめる。
 そしてユウリが、口を開く。懐かしげな目をして。
「あなたの中には・・・竜也もいるわ。きっと、竜也も、扉を叩いてる」
「え?」
 ここにいるユウリたち以外にも、自分の仲間がいるとは考えていなかったシオン
は、新たに聞く名前にすぐさま反応する。
「たぶん、滝沢もな」
 アヤセが言うと、ドモンも負けじと
「それをいうならホナミちゃんだって・・・!」
と付け加えた。
「え?え?」
 シオンは戸惑いながらも喜びが沸き上がってくるのか、複雑な笑顔を浮かべて仲
間たちの顔を交互に見比べた。
 シオンの膝の上のタックが、
「すぐに思い出せるさ。時間保護局へ行こう。保護局の設備なら、完璧な処置がで
きる」
と促す。
 賛成の意で手を打ち、ドモンは指を鳴らした。
「ついでに、技術開発部の奴らもシメてやらなきゃな」
「そうね。何らかの形で、誰かがハルキたちに手を貸していたに違いないもの」
 ドモンとしては、シオンを厄介物扱いした者すべてが対象だったが、ユウリは冷
静に言った。
 だが、タックの案は、すぐには実行に移せなかった。
 病室のドアが突然開かれ、五人の男がずかずかと入ってきたのだ。彼らは、揃い
の紺のスーツを見にまとい、手には銃を持っている。
 先頭の男が部屋の面々を見渡し、左手に持った小型の3Dプロジェクターに映し
出したシオンと本人を見比べ、
「間違い無いな・・・ここに居たか」
と、つぶやいた。
「何だ、お前らは!?」
「我々は、ある異星生命体研究所から迷い出たハバード星人を保護する為に来た。
さあ、おとなしく来るんだ」
 シオンに近付く男を阻止せんがため、ユウリとドモンが間に入り、身構える。ア
ヤセも即座にベッドから降り、シオンをかばった。
「あなたたち、企業の私設警察ね」
「地球上でのシェアがトップクラスの、大手の製薬会社だな・・・」
 男たちのスーツの襟につけられたバッジのマークには、ユウリもアヤセも見覚え
があった。そして、シオンが付け足す。
「今の所長になってから、研究データを提供している会社です」
 先頭の男は、口の端でにやっと笑い、肯定の意を示した。
 いまいち話題に入れないドモンが、一歩、足を踏み出し、
「誰だろうと、勝手にシオンを連れてかれてたまるかよ!!」
と怒鳴る。
 予想していた抵抗の意思を受け取り、先頭の男がドモンに銃口を向けた。それを
合図に、他の四人もそれぞれに銃を構える。
 

                         To be continued・・・