Vol.636 22.Jun.2012
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「福島原発の真実ー最高幹部の独白」を読んで
by fjk
表題の本は2011年3月11日に起こった、福島原発事故の現場の状況を記述したものである。ネットではこの本は虚構であるとの非難も出ているが、読んでみると「事実として十分にありえる」と思えた。政府は2011年12月に、「冷温停止状態」を宣言し「事故の集束」を強調した。しかし、現在も燃料棒がどうなっているのかも解らない状態で、避難された人たちも、いつ我が家に帰れるか不明である。「人の噂も45日」と言われ、マスコミにも福島原発の記事が出なくなってきているが、現時点であらためてこの本を読んでみると、日本を壊滅的にする非常に危険な爆弾を未だに抱えていることを痛感した(建物の崩壊が起これば、3.11の再来となる)。そして、この事故は人災と言われているが、未だ、明確に責任を取った人は誰一人いない。
6月20日に東京電力が最終報告を行ったが、自然災害と国の責任で、東京電力としては仕方がなかったと言う内容は、被災者や国民の感情を逆撫でしている。一方的な電力料金の値上げ、停電になるという脅し、復興で焼け太りをしようとしているのか、非常に腹立たしい。
この本を読んで、まず感じたことは、事故そのものよりも、「事実の隠蔽」と「責任の回避」が明らかに感じられることである。判断のミスや見通しの甘さもあっただろうが、福島の一部の被害ではなく日本の危機、いや世界の危機になるかもしれない事象であると認識していないことである。いや、認識したから事実を言えなかったのかもしれない。余りにも大きな事実を突きつけられ、判断不能に陥っていたようにも思える。映画の中であれば、決死のヒーローが登場し、ベントや放水を行うのであるが、一部の作業者が大量に被爆しながら試みたことも、この本で述べられている。しかし、組織的でなく、後方支援もほとんど無く、最終的には爆発を防ぐことができなかった。
詳しい内容は本文をご覧頂くとして、原発事故は被害範囲が広大で復旧までに時間がかかるので、権限が制限された1委員会の裁量で処理するのではなく、やはり首相がリーダーとなり各省庁を使って対応にあたるべきである。飛び散った放射能は日本だけでなく世界中に広まるのであり、国際協調も必要で、これは政府でないと対応できない。原発の再稼働が話題となっているが、再び原発事故(福島の再爆発を含む)が起これば、日本には誰も住めなくなる可能性があるのである(福島事故時には青森県から静岡県まで放射能で汚染されると東電でシミュレーションされていた)。
少なくとも「想定外」ですまされることではなく、想定外の事故が起こった時に、的確な指示や行動ができる訓練や人材を育てておく必要がある。具体的には「原子力に精通した適任者を、全権を持った現場責任者として政府が現場に派遣し、現場で判断し、現場の要求に政府が全面的にサポートし、人員・資材・情報の確保とそれによって発生する全ての費用を政府が持つ」体制を、何時いかなる時でも速やかに対応できる仕組みを作っておくべきである。日本の国が無くなっては政府もいらない。原子力発電所は一企業のものではなく、日本国民全体のものであると考えるべきである。
私事であるが、現役の研究員時代に硫化水素100%のガスボンベを倒してしまい、配管が外れ、ガスを噴出させたことがある。硫化水素は1000ppmでショック死すると言われているが、息を止めたまま、離れたところに倒れたボンベに近づき、コックを閉めて事なきを得たことがある。秒単位の時間と思われるが、ほとんど無意識で行動したように思う。福島の事故を聞いた時に、このことを思い出し、当然冷却水(海水)の供給やベントなどは(現場の判断で)すぐ行われているものと思っていたが、上司の指示を待っているだけであったとは・・、やはり人災と言わざるを得ない。そして、判断を間違えた人には責任を取ってもらわなければならないし、SPEEDIや放水車など、使えるツールや情報があっても、他人事のように、それを知らせ(行動し)ない人も責任を感ずるべきである。
「我が身さえよければ」と平安貴族のような人々が暮らす日本になったのであれば、新興勢力の武士(橋下?)がこの世を直すしか無いのであろうか?