2.試験結果に影響を与える種々の条件
2.1 電界、温度、湿度、素材、形態
(1) 電 界
イオンマイグレーションによる破壊時間と電界との関係は、縦軸に時間の対数をとり、横軸に電界強度の対数をとると、ほぼ直線的な関係が得られ、その経験式は以下のように表される。
tr = ke E−n
ここで、tr は破壊時間(h)、ke およびnは定数、Eは電界(V/mm)である。nはフェノール基板上の銀の場合約 0.4 である(5)。
(2) 温 度
イオンマイグレーションによる破壊時間と温度との関係は、縦軸を対数表示で時間をとり、横軸を絶対温度の逆数をとると(アレニウスプロット)、ほぼ直線的な関係が得られ、その経験式は以下のように表される。
tr = kT exp(ΔQ/RT)
ここで、tr は破壊時間(h)、kT は定数、ΔQは活性化エネルギー、Rは気体定数である。フェノール上の銀の活性化エネルギーを求めると約 0.2 eVである。
(3) 湿 度
イオンマイグレーションによる破壊時間と湿度との関係は、縦軸を対数表示で時間をとり、横軸を湿度の対数をとると、ほぼ直線的な関係が得られ、その経験式は以下のように表される。
tr = kh H−n
ここで、tr は破壊時間(h)、kh およびnは定数、Hは湿度(%)である。nはフェノール基板上の銀の場合 8〜17 の値が報告されているが、まだ明確ではない。しかし、環境条件の中では最も変化が大きい条件である。
(4) 素 材
イオンマイグレーションは電気化学反応により電極金属がイオン化して溶け出すことによって起こる。しかしイオンマイグレーションの起こり易さはイオン化の電気化学列の順序と異なり、 Ag>Pb≧Cu>Sn>Au の順であり、Fe、Pd やPt は起こりにくい。なぜイオンマイグレーションを起こりやすさの順番がこのようになるのか、まだ明確な説明はなされていない(6)。
また、Ag−Pd(7)、Ag−Cu(8) の様に合金化することによってイオンマイグレーションの発生を遅くすることができる例が報告されている。
(5) 形 態
イオンマイグレーションは、バルク、インク、メッキ、クラッドなど電極の形態によらず発生するが、含有する不純物や組成、使用環境などの違いにより、発生の状態が異なる。また、金属の結晶状態や粒の大きさ、表面粗度などの影響については、まだ明らかではない。
2.2 不純物
イオンマイグレーション試験に影響を及ぼす不純物としては、試料そのものに含まれる内的不純物と、試料そのものにはなく、後で付着したものなどの外的不純物に分けることができる。これらの不純物はイオンマイグレーションを促進したり阻害したりする。
(1) 内的不純物
これらの多くはパターン形成時などに残る化学残留物である。そして、多くの場合適切な洗浄で無くすことができる。しかし、難燃性の基板などに含まれるBr イオン(イオンマイグレーションが遅くなる(9))などは基材固有のものであるが、分類上は不純物と見なす。
(2) 外的不純物
試料の保管や運搬、試験中に周囲から試料表面に付着または水溶液などに溶け込むもので、空気中のほこり、フラックスの残留物、指紋残留物、金属生成物(イオンマイグレーション生成物を含む)などがあげられる。また空気中に存在するCl、Nox、Sox、NH3などのガスが試料の表面などに吸着した水に溶けることにも注意を払う必要がある。