4.イオンマイグレーション試験
一般に行われているイオンマイグレーション試験は、実際にフィールドで使用されている条件に比較し過酷な条件で行われている。その意味では寿命試験は加速試験であり、実験結果をフィールドで利用するには、過小評価をしないように充分に注意する必要がある。
4.1 環境試験法(Humid)
(1) 定常試験(高温高湿度雰囲気)
試験試料を高温高湿度雰囲気中で、直流電圧を印加し、イオンマイグレーションにより導体間が短絡するまでの時間を比較する試験法である(5)。試験条件としては、40〜85℃、85〜98%RH、5〜100Vが良く用いられている。イオンマイグレーションの試験法としては最も多く用いられている。イオンマイグレーションの発生・成長および各条件依存性、加速性などが定量的に把握できき、フィールドでの使用を想定した予測評価法に適している。しかし、試験時間としては数100〜数1000時間が必要である。
現在、このようなイオンマイグレーション試験の規格はないが、JIS-C-5028(電子部品の耐湿信頼性試験)やJIS-Z-3284(ソルダーペーストの絶縁抵抗試験)などの規格を流用した試験が行われている。
湿度はイオンマイグレーションに影響する大きな要因であるので、試験時には、温湿度の精度、気流、結露などに充分な注意を払う必要がある。特に、結露を起こすと、濡れたイオンマイグレーションとなり、瞬時に絶縁破壊を起こす事がある。
(2) サイクル試験(結露を含む)
温湿度雰囲気を変化させながら、直流電圧を印加し、イオンマイグレーションにより導体間が短絡するまでの時間を比較する方法である(11)。試験条件としてはJIS-C-0028の低温サイクルを含まない24時間サイクル試験などが採用されてる。
結露を起こすと、定常状態でのイオンマイグレーションとは異なるが、フィールドでは結露が原因による故障も考えられ、結露環境を意図的に組み入れた試験として結露サイクル試験も行われている。
(3) プレッシャークッカー試験
定常試験では長時間を必要とするので、電子部品の加速試験として用いられている不飽和型の蒸気圧試験をイオンマイグレーションの評価に用いたものである。定常試験との相関性が得られた報告例もあるが、不良の原因や機構の相関関係が明確でなく、また、破壊試験的な要素が強いため、比較試験や耐久試験の指針として用いられている。
(4) 調湿塩法
JIS-B-7920(湿度計−性能試験方法)に規定される過飽和の調湿塩を密閉容器に入れて試験を行う方法である。温度および湿度はほぼ正しく設定できるが、塩の影響が懸念される(分析ではほとんど検出されないが)。比較的小さな空間で試験を行うことが出来、環境試験設備もほとんど不要なので湿ったイオンマイグレーションの簡易試験法として用いられる。調湿塩としては20℃ 時ではNaCl(76%)、KCl(85%)、KNO3(93%)、K2SO4(98%)などが用いられる。
この試験法において、電極間に印加する電圧を順次上昇させた時に、イオンマイグレーションが発生する電圧が湿度に依存する報告(12)があり、この方法によるイオンマイグレーションの短時間評価の可能性が提案されている。
(5) 電圧の印加方法
イオンマイグレーションは条件によっては非常に短時間で発生する現象である、それ故、環境条件が安定する前に電圧を印加すると、異なった条件での試験結果となる。しかし、逆に電圧の印加前に、環境で放置される時間が長くなると、イオンマイグレーションの発生が早くなる場合もある。
4.2 液中試験法(Wet)
電極金属や絶縁材料の種類によるイオンマイグレーションの発生のし易さを短時間に評価する方法で、相対的なイオンマイグレーション特性を比較するのに有効である。
(1) 溶液浸漬法
脱イオン水または希薄電解液に電極を浸漬した状態で、直流電圧を印加して、イオンマイグレーションによる短絡までの時間を測定する方法である(13)。電極金属の種類の違いによるイオンマイグレーションの起こり易さを短時間で比較することが可能である。顕微鏡による観察を容易とするため、2枚のガラス板に蒸留水を満たす方法も行われている(14)。
(2) 水滴滴下試験(Water-drop)
櫛形電極基板などを用い、これに脱イオン水を滴下後、直流電圧を印加し、イオンマイグレーションによる電極間が短絡するまでの時間を測定する方法である(15)。イオンマイグレーションの発生の様子は実体顕微鏡等を用いて観察することが容易である。
この試験法では、イオンマイグレーションの感受性で見ると Pb>Ag>Cu の順となり、定常試験の結果(Ag>Cu>Pb)と異なる(16)。しかし、実際にイオンマイグレーションが発生する条件等は異なるが、短時間(数秒以下)でイオンマイグレーション現象を発生させることができるので、フラックスの評価などの簡易評価法として用いられる。
ただし、滴下する水の水質と滴下量は試験結果に影響を与えるため、規定する必要がある。また、ガスの発生や水の蒸発を伴うので、電流をあまり多く流し過ぎないよう試験条件を設定する必要がある(印加電圧としては1〜100V)。
(3) 濾紙吸水法
ガラス板上に脱イオン水等を浸透させた濾紙を起き、その上に電極を対向させ、直流電圧を印加し、短絡するまでの時間により、イオンマイグレーションの金属の種類による差を比較する方法である。水滴が電極で覆われない意味では水滴滴下試験法の改良といえる。電極材料の相対的比較・評価用として使用される。