5.イオンマイグレーションの評価方法
5.1 光学的観察
偏光光学顕微鏡などで試料の表面を観察する方法で、最も一般的なイオンマイグレーション評価法である(17)。主にイオンマイグレーションの進行状況や形態、色などを評価する。
通常は、一定時間毎に試験槽から取り出して観察を行うが、環境槽内にカメラをセットしたり、溶液をガラスで挟むなど、発生の状況を連続して観測する方法も行われている。
測定の取り出し時間としては、JIS-C-5023に準じた時間などが用いられる。
5.2 絶縁抵抗値
絶縁抵抗値はイオンマイグレーション現象の結果として重要な要素であり、試料の絶縁抵抗値の測定が一般的に行われている。絶縁抵抗値の測定には、環境試験中の試料をリアルタイムで測
定する槽中測定と、一定の時間毎に試験槽から取り出して抵抗値を測定する槽外測定がある(18)。
槽中測定では、印加している試料に直列に抵抗値を接続し、この抵抗値に発生する電圧から、絶縁抵抗値を求める方法が良く用いられる。この他にもいくつかの抵抗接続例があるが、測定値に大差は無さそうである。無人で連続して試験できるメリットはあるが、スキャナーなどが必要なため、装置が大がかりとなり、同時に多数の試料の試験が難しい。またノイズの影響を少なくするため、同軸ケーブルを使うなどの注意が必要である(測定ケーブルの信頼性にも注意)。
槽外測定では高絶縁抵抗値の測定が行いやすいが、時間的に断続した測定なので、急激に変動を起こす現象を時間的に捕らえにくい。また、測定環境が試験環境と異なると、結露が発生したり、逆に乾燥状態になるなど、正しい値が得られなくなる。試験槽から取り出すには、試験温度を25℃(測定室温程度)に安定させて(できれば湿度も下げる)から取り出し(または、取り出し後室温で30分以上放置)、抵抗の測定には、試験槽から取り出し30秒〜120秒後に測定する方法が行われている。
なお、絶縁抵抗値の変化は、吸湿性の大きい材料(例えば紙フェノール基板)の場合は、吸湿特性を含むデータとなるので注意が必要である。
さらに、抵抗値の変化に付随して、基板の重量変化(吸湿率)などの測定も行われている。
5.3 誘電特性
樹脂のキュアー状態や表面の洗浄の程度によりtanδが変化し、その傾向はイオンマイグレーションの発生時間と相関があることが報告されている(19)。これは、低周波のtanδの変化が絶縁体のイオンをキャリアとするイオン電流に起因し、イオン濃度が多くなるとイオンマイグレーションが起こりやすくなるとためと考えられている。すなわち、初期のtanδを測定することでイオンマイグレーションの判断ができる可能性を示唆している。しかし、熱的変化などによる基材の変質やイオンマイグレーションの進展に伴う電極形状の変化などが測定結果に影響を与えるなどの課題がある。
tanδは一般的な絶縁物の測定にはよく使われており、イオンマイグレーションを含めた相対的な絶縁評価(フラックスの評価)およびイオンマイグレーションに影響を与える因子である吸湿状態やイオン濃度の評価等の評価には有効である。
また、蒸留水中での静電容量による測定では、絶縁抵抗値が低下し始める前に、その変化が見られ、イオンマイグレーションが最初に発生した時間を求めた報告があるが、まだ一般的ではない。
5.4 SEM観察
SEM(2次電子顕微鏡)を用いると、イオンマイグレーションの状態を高倍率で観察できる。通常、導電性を得るためにカーボン蒸着や金スパッタなどの表面処理が必要(試験の継続は不可)である。SEM観察により、デンドライトは連続した個体ではなく、ミクロン前後の析出物の繋がりであることが判った。しかし基板の内部に進行するCAFなどの観測は容易ではない。
今後、さらにミクロ的な形状や構造、成長状態についての観察が望まれている。
5.5 組成分析法
組成分析法としては、非破壊で分析が可能なEPMAやオージェ分析装置が用いられている(4)。移行金属の分布や化合状態の分析が点またはマップ情報として得られる。イオンマイグレーションした金属の実際のマップ(光学顕微鏡では色や明暗の差が大きくないとイオンマイグレーションとして認識しにくい)が得られるので非常に有効であるが、一般に移行した金属は少量で膜厚が薄く、細部の測定は容易ではない。ビーム源として電子線が用いられるため、試料に対するダメージが大きく、高分解能な測定は難しい。
その他の分析としては、残留ガス分析や試料を溶液に溶かした成分分析が行われている。
5.6 放射化分析
電極の金属を放射化し、イオンマイグレーション試験後の分布を写真で撮影し、移行金属の詳細なマップや、電極の違い(陰極の金属は全く移動しない)が測定されている。しかし、装置が特殊であり一般的ではない。
5.7 軟X線による観察
試料内部に軟X線を透過させて観察する方法である。樹脂などの絶縁物の場合、移行金属の状態が表面から見える場合が多いが、外部から光学的に見えない導体電極内部を調べると、ボイドやヒロックが多数できている例がある。軟X線観察は、絶縁物内部のイオンマイグレーションの確認や電極内部の状態の観察に用いられる。
5.8 AFMによる観察
イオンマイグレーション現象の結果としてデンドライトがあり、その形状を3次元的に測定する方法として、走査型プローブ顕微鏡(特に原子間力顕微鏡:AFM)により原子レベルでの観測が行われている(20)。それによると、ガラス上の銀デンドライトを構成する粒状の析出物の大きさは1.3〜2.1μm(高さは0.2〜1.2μm)と報告されている。AFMはSTM(トンネル顕微鏡)と違い絶縁物でも測定できる特徴がある。
しかし、測定範囲が非常に狭い(0.1mm角位)ので、測定の位置決めが大変である。
5.9 レーザ顕微鏡による観察
共焦点構造で高さ方向の測定ができるレーザ顕微鏡でデンドライトの3次元構造を測定する方法がある。AFMよりはデンドライト形状の認識は容易であるが、レーザの反射光を利用しているため、AFMほどの高分解能な像は得られない。