乾漆素地の乾燥
乾漆素地を作ってすぐに型を壊して、素地を取り出すとすぐに狂ってしまう。数センチの狂いで済めば良い方である。
石膏型に貼ったまま、熱を加える必要がある。木地の場合も、十分乾燥させておく必要がある。
狂わせる要因としては、漆を吸ったことによる刺激、日光に当たることによる刺激などに耐え切れない弱さが考えられる。
熱処理の方法として、坂下先生や増村先生からいろいろ聞いた中から、自分で一番やりやすいと思ったものを中心に纏めていく。
一番楽な方法は、コタツの中に置く、ストーブやファンヒーターの前に置く、直射日光の下に置く。
黒いビニール袋の中に入れておく方法は、思ったほど温度が上がらない⇒下に黒いものを敷くか、黒いものを密着させて、それを透明なビニール袋で包むことで温室を作る方が温度が上がる・・・直射日光下。
1997年に出品の関係(時間の関係)で、強制的に熱を加える方法を取るまでは、上記の方法を取っているだけだった。1ヶ月ただ放置するだけ、生活する中での高温にあわせるだけ、、、これでもしないよりははるかにましだが、型からはずして2ヶ月ほどは微妙に(1mm前後)素地が動く。薄めた生漆を数回吸わせることで動きが止まった気がする。
1997年の春は、天気が悪く、直射日光の下におくことが出来なかった。焦って、坂下先生に1993年に話を聞いていた赤外線による方法を取らざるを得なくなった。
300w〜500wのランプで茶箱の中に置いた作品に熱を加える。サーモスタットで箱の中の温度を40°c程にしておく。真夏でも一番熱くなった部分で70°程だった。
徐々に熱を上げるべきなのは、特に布目擦りをしない場合など、中の穴に残っている空気が膨張し、布を剥離させるのを防ぐためである。
一日10時間ほど、約10日間加熱している。80°迄加熱すれば、24時間でよいそうだ。
1万円未満で装置を作る場合は、多少の不便は仕方がない。
直射日光にさらさないで、室内に長時間置いても、狂いはなくならない。加藤寛先生のビデオによれば、遺跡から出土したものでさえ、狂うようなことを言っていた(ような、、、)
糊を含む限り水分に弱い。木地の仕事でも50°程度で狂わないようにしておくべきである。
加熱による素地や木地の動きを押さえるために、石膏や鉄の棒などで補強しておく。木地の場合は特に、加熱を止めた後、急に冷やさないよう布などで包んで保温しておかなければならないそうだ。
電子レンジで短時間加熱する方法もあるらしいが、したことはない。
蓋と身の合わせ物でないなら、長時間、石膏原型に貼り付けたままにしておくだけでも良い・・・多少素地が動いても気にならない(ことが多い)。1mmずれても、その違いが分からないところは、その作品にとって、形を決める要ではないことになる。美的価値が余り無い作品、、、
ステンレスの上で天日干し(外に出しっ放しだったので、早朝の雨が4センチほど溜まる)
離型
充分乾燥させてから、石膏に水を吸わせる。石膏に染み込んだ水分が、離型剤として塗ってあった糊(アラビアゴムなど)を緩めるのを待つ。
端など、水を吸い込みやすいところがあるので、余り水がかからないように注意する。石膏だけが充分水に浸かるようにしておく。
素地に傷をつけないように注意して、マイナスドライバーなどを木槌で叩いて、少しずつ石膏原型を割っていく。
石膏雄型は割りにくい。上の方から少しずつ側面部分を壊していくしかない。乾漆素地までドライバーの先で傷つけてしまうことが多い。焦らず、気長に、、、
石膏雌型は一番上を少しずつ叩きながら移動していく。何周かすれば、自然に石膏の方が外へ向かって剥がれていく。
離型剤が薄すぎた場合は、剥がれにくい。厚すぎた場合は、漆の仕事をする前に、石膏原型の上でひび割れを起こし、剥がれてくる。離型用に二回ほど、少し薄めにアラビアゴムを塗っておくぐらいが丁度良いようだ。底の部分は、全体が一度に取れることの方が普通であろう。
乾漆素地を取り出したら、糊分を水で洗って取っておく。取り除けなかった石膏片もできるだけ取っておく。(後から研いでも良い)
素地の水分を布で拭き取り、端を下にしてガラス板の上に置く。軽めの重石を載せておき、一日ほど置く。
素地の動きを抑えるためである。熱処理が充分してあり、端も生漆を充分吸わせて水分を吸い込まないようにしてあるなら、ここまでしなくても良い。