磨き

上塗りが終わり、蝋で磨いたように仕上げる時、この工程に入る。
上塗りだけで仕上がりとする塗り立ては、塗り肌を生かした柔らかい感じになる。
塗りに残る刷毛目やゴミ(節)を研ぎつぶして、磨き上げて仕上げる蝋色仕上げは形をはっきり見せる。

蝋色仕上げに関しては、「漆の技法⇒朱の蝋色」に書いてある。

まず木地磨きという言葉がある。
木肌を滑らかにすること、角を落とすことで下地や漆ののる面を作ること。

次に、研ぎのことを磨きという場合がある。
下地を付けたり、塗って刷毛筋やゴミが目立ったりしているのを研ぐことによって滑らかにするからであろう。

普通は、蝋色研ぎをしたものを胴擦りすることと摺り落としをすること。

胴擦り

どこまで磨くか。磨きあがるとはどういうことか。
朱と黒では、磨き過ぎに対する対応力にかなり差がある。

蝋色炭で研ぎあげた後、その研いだ痕が無くなるまで磨く・・・油砥粉、コンパウンドなど。
◎漉しガラから染み出すのを使うとしても、油砥粉のほうが、極細コンパウンドより少し粗い。

・脱脂綿、モスリン、フェルトを回したり、一定方向に少しずつずらしたりして磨く。
 ⇒同じところを磨きつづけると、熱を持ちすぎてよくない。
・コンパウンドに粘りが出たら、灯油を少しつける。 最後にシリコン分を拭き除いておく。
・静岡炭の研ぎ痕が残っていることがあるので、静岡炭での研ぎに注意を要する。
・綿につくゴミやかす、力の入れすぎなどでも傷がつくので、注意すること。
・磨きあがった頃、力を抜いて回して磨くと、磨き残しが浮き上がってくることがある
 ⇒さらに磨いて傷を取る・・・最後に全体をムラなく磨き上げる。
・摺り渡しをして初めて磨き残しに気付くこともある⇒磨き直す。

朱の場合は、上の方法で磨き、そこで止める。
黒や金の場合は、さらに磨きこんだ方が艶が上がる-きめ細かく磨き上げるようにする。

(2001.11.20)
 顔の正面に磨く面が来るように置き、目の前で右手を反時計回りに回しながら、少しずつずらしながら磨く。
 静岡炭の深い研ぎ痕や蝋色炭の研ぎ痕に対して、垂直方向から磨くと磨けているかどうか見易い。
 回し磨きなら、いろいろの方向から磨くことができるので、都合が良い。
 蝋色研ぎの痕より、綿などの磨き痕がきめ細かくなったら、磨き上がったといえる。

(2003.9.5)

胴擦りで一番苦労するのは、静岡炭の傷が深く残っている時である。
蝋色炭の回し傷も、凹面ではつき易い。
極細コンパウンドを使い、脱脂綿で磨く方法をどうすれば良いか考えながらしてみた。
1.磨こうとするあたりにコンパウンドと灯油をつけ、まぶしながら広げる
2.コルク栓の先に手で綿を持ち、その綿でまぶしながら、なじませる
3.引っかかる感じがなくなるまで、力を抜いて磨き、軽くなったら徐々に磨くスピードを上げる
4.動きを速くすると自然に入るぐらいの力で、汗が吹き出す程度まで磨きつづける
 ・むしろ手前に引くときに磨く感じで=力が入り過ぎない
 ・時々回しながら=力が入り過ぎない
 ・少しずつずらしながら=一箇所に熱を溜めない
5.磨き面にコンパウンドが少なくなり、磨き面の様子が見え出したら、徐々にスピードを緩めながら、周囲にも磨きを広げ、ムラをなくしていく。
6.磨けない傷は、クリスタル#1500−#2000で研いでかかる。
もう一回上記の作業を繰り返す。
隅はそこを磨いているのをシッカリ見ながら、スピードを上げすぎないで磨くしかない。

蝋色研ぎで傷をつけなければ、胴擦りは楽である。
小さめの静岡炭で、ゴミや刷毛筋を力を入れないで、少しずつ研ぎ潰していく。
黒塗りの場合は、ほとんど刷毛筋がきえてしまうくらいまで研がないと、段が残る。
蝋色炭で、これも力を入れないで、面に合わせて研ぐ。
クリスタル炭は、胴擦りをして、傷が残る場合に利用すればよい。

(2003.10.1)

バフ磨きの傷の原因はどこにあるか?
A社では、極細コンパウンドを水で薄め、絡みつかないようにしていた。
磨き残しができるとのことで、中目コンパウンドを使うことも始めていた。
そうしたことを余り知らないまま、バフ磨きをすると、深い傷が残った。
ザラザラする原因が、中目コンパウンドが混ざっている所為だと教えてもらった。
それで脱脂綿を使って、極細コンパウンドで磨くのと同じように、所々指でコンパウンドをつけ、力を加えないようにバフ磨きをしてみた。
深い傷も消え、割合楽に磨きあがった。
超微粒子コンパウンドで艶を上げると、磨き残しに気付き、また極細で磨き直したりもした。
手で、バフの磨く感じを感じ取ろうとすると、そんなに熱もなく、痛くもない、布がまだ柔らかい感じさえした。
結局、回転数が全てを解決していることになる。
手で磨いては消えないような深い傷さえ、そのうち磨きあがる。

手で磨くことへ、バフ磨きをどう応用したらよいか?
回転数ではかなわない。
バフより粗く・固めの脱脂綿やモスリンで磨く点が違う。
力の入れ具合も多少強くなるだろう。
バフ磨きでは、磨く場所に移動を速くして、熱を持たないようにする。
手磨きでは、力を抜き気味でも、手数を増やす(すばやく動かす)と、熱をもってしまう。
かと言って、磨く場所を速めに移動すれば、なかなか磨きあがらない。
結局、磨く道具を、粗めから細かめ(フェルト)へと使い分けるしかないのか?

朱の場合は、摺りで表面に膜を作るのだから、多少粗めで磨き上げた方が良いかもしれない。
その方が、最初の生正味漆の吸い込みが強くなるから。
黒や透きの場合は、粗めで磨き終えていると、その傷が摺りでは消えない感じがする。

摺り落とし

生正味漆を希釈したものを摺り込み、拭き切れなくなったとき、種油と粉をつけて磨く。
曇ったような膜が消えたら磨きを止める。
艶が上がるまで、摺り渡し⇒摺り落とし(完全乾燥後の方が艶が上がりやすい)を繰り返す。

朱の場合は、力をできるだけ抜くようにして、磨く・・・指先、手のひらで磨く
黒の場合は、力を入れ気味でも良い。
*摺り漆が乾ききって落ちなくなった時は、綿や木綿などを利用すると良い。
*狭い場所の摺り落としには、セーム皮を使う - 指先で磨くのと同じぐらいの力の入れ具合で。

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