失敗の記録(2004.3.19− )

布が浮く原因〕 〔糊漆の混合比と麻布の脆さの関係〕 〔ラミー玉糸

熱処理の失敗(2004.3.19)

〔乾漆0310〕雄型に布を貼って素地を作り、叩いても乾いた音がしている気がしていた。
絶対大丈夫だと考え、ランプ500w投光機から20cmほど離れた位置に素地を置いた。
サーモスタット30℃設定、ランプの直射地点で60℃−70℃くらいだろう。
半日ずつ、2日後である今朝見ると、蓋の中央が膨らんでいる!
10分ほどならと直射した身も、僅かの間に膨らんだ。

熱で焼け、赤くなって見える。
刃物で破ると、すごい膨らみ。

上から3枚切り取った後、更に2枚浮いていた。
蓋(2/20 2/12 1/30乾き少し悪い)
身(2/15 1/30糊漆が湿っている)

ランプからの距離を取る為、茶箱の置き方を横向きにしたらどうか?
左の蓋は、麻紐で縛って出来るだけ閉じておく。

全体的に温める、正しい熱処理でさえ、徐々に温度を上げていくし、高温から冷ますのも出来るだけゆっくりするという話である。

部分的に熱がかかり、温度の変化も急激な今のやり方は危険である。
熱源から離し、急激な刺激を与えないようにすべきであろう。
離れすぎると、この方法では、熱処理の働きが弱くなる。
適度な距離を知るべきだろう。

 

乾漆0310に戻る

布貼りの失敗(2003.3.19)

〔乾漆0310〕雄型の熱処理で浮いた理由の一つに、部分的に糊漆のムラがあったことがあるようだ。
蓋の素地側の白っぽく見えるところが、少し糊漆不足だったのではないか。
熱処理で無理さえしなければ、剥がれることは無かったと思われる。

剥がれたのは、 全て厚く固い布だった。
外側から3枚重ね、その下2枚が剥がれる―1/30が糊漆乾き不十分

 

身の裏の浮きを切り取ると、左の切り取ったものの中央辺りに黒っぽい感じが見える。

糊漆が乾いていなかったのである!

外側から3枚重ねが浮いていた。
(2/15)
その下も、糊漆の乾き不十分。
(1/30)

 

切り取った布の重なり(3枚と5枚)は、固く固まってはいない。
折り曲げると、折れてしまった。
布の弾力性を残そうと、リグロインで薄めた生漆を吸わせるのを、布目摺りにだけ行ったのに、こんなに脆いとは!
布貼りについて、もっと工夫がいるようだ。

(2004.3.22)
・布に弾力を残す方法

・布(素地)を固める方法

2004.3.29(月)

前日から、荒砥で空研ぎすると、浮いているような音。
削ってみても、浮いていない感じ、、、
糊漆の乾きが不十分な感じが無くも無いが、、、
刃物の先で突付いたり、押したりしてもその部分は動かない。
石膏原型か、下地面と、麻布の間に隙間があるのか?

今回は、平地と側面を別の布を使い、その分、それぞれが乾く時間を多く取れるようにと考えていた。
それがこんな結果になり、どうすれば良いのか分からなくなっている。

3.30(火)

何が起きているのか分からない、とでも言うしかない状態。
半乾きという感じが、削ると見える。
所々、布が浮いている感じも見える。
終に、石膏まで出てしまった。

地の粉を混ぜて糊漆を使うという話は知っている。
しまりが速くなるので、失敗する可能性はあるが、厚みを多少緩く考えてよくなる。
乾きが悪い時期は、漆分を弱くすべきなのだろうか?

2004.8.7前日型から抜いた蓋
平になっているし、上手く直ったようだ。

4.1(木) 布が浮く原因

固い厚めの麻布を貼る時、硝子板に糊漆をひろげ、布をおき、その上から更に糊漆をわたす。
貼る場所にも糊漆を薄くわたし、布をのせ、必要なら更に糊漆をわたしてくっ付けるようにする。
これが糊漆が厚すぎる原因かもしれない。

両側からたっぷりと糊漆を吸わせることになる所為か、剥がれた布が手で裂ける状態になっていた。
予想外のことなので、戸惑っている。
漆を芯まで吸い込まないことが麻布の長所なのに、そうなっていない!
リグロインで薄めた生漆を吸わせず、布貼りと布目摺りだけで脆くなるとは!

空研ぎの音が変なところを切り取ると、その付近の空研ぎ音が変になった。
切り出しのような刃物で削ると、その力で付近の布を持ち上げるようになり、また浮き出すのだ。
それに気付いてから、
丸刀で削るようにした。

4.2(金) 麻布が裂けない為には・・・

今回も、試験してみることにする。
増村先生のときの細かい方、高野漆行のカヤ布で、まず試してみる。
1.ガラス板上に糊漆をひろげ、麻布をおき、糊漆をわたす。
先の尖った竹で持ち上げ、貼る場所におき、貼る。
a.布目摺りまで。 b.糊漆まで。
2.貼る場所に糊漆を箆でひろげ、麻布をおき、箆で押さえる。
薄く糊漆を上からわたす。

  増a布目摺り 増b 高野a布目摺り
1両側から 6 4 1
3 5 2
手で裂ける? 裂ける 裂ける 斜めには裂けない

4.3空研ぎ。乾きよくない。
4.5布目摺り。
4.6貼り付けたアクリル板から剥がし、手で裂いてみる。
 
強い順に番号を打つ・・・表の中の数字。

4.3(土) 思い込み

考えてみれば、麻布二枚貼り合せ試験の布片を使えば良い。
厚い布同士も、そうでない同士でも、簡単に裂くことが出来た。
高台を作るため、何枚か貼り重ねた布を刳り抜いた残りさえ裂くことができる。
唯一裂き難かったのは、バイアス状に貼り重ねてある時、正確には糸が交差する方向に斜めに力を加えた時。
裂くような力がどの方向から来ても耐えられる為には、布目の方向がバイアスよりもっと細かくズレていることが必要だということになるし、ある程度の枚数が必要だということにもなる。
(4.7)2004年版でも書いたが、斜めが強いのは、縦・横2本の糸で支えるからだけでなく、縦糸・横糸を交互に編んでいることが、撚っていることに少しは近い働きをするからだろう。

思い込みとは恐ろしいものである。
芯までは漆を吸い込まないから、麻布の弾力が残るということは無かった。
多少は残るが、漆を吸わない時は絶対に手で裂く事ができない麻布が脆くなるのである。
乾漆とは、本当に優れた技法なのだろうか。
帝国繊維の麻紐だけが唯一耐久性を持つようだ。

4.6(火)

麻布二枚貼り合わせ試験や布の癖を調べる試験をしたのをまた取り出す。
今回してみた試験と同じ高野のカヤ布が、前の糊漆の吸わせ方では、簡単に裂く事が出来た。
一枚で強い布(糊漆を吸わせて)より、二枚貼り合せの方が簡単に裂く事ができる!
糊漆(漆?)が麻布の中に吸い込まれるのが多いほど、脆くなる。
手早く貼る方が吸い込みが少なくなるだろうから、そうすべきかもしれない。
いろいろ持っている布のうち、高野のカヤ布が漆を吸ったとき一番強いと分かった。

麻布をどの程度の比率で漆を含んだ糊漆で貼った場合、弾力性を残すか調べる必要がある。
糊:生漆=5:5は今までしてきた比率(実際は、もう少し生漆が多いが 5:5.5)。
糊:生漆=10:0、9:1、8:2、7:3、6:4ぐらいで試す必要があるだろう。
後からリグロインを吸わせた場合、布の弾力性(強さ)を残しうるか?
全ての布貼りで弾力性を残すと、素地の動きが止まらないかもしれない。
固める布強さ(弾力性)を残す布をどういう配置にすればいいか?
弾力性(強さ)を中に持っていくか、外に置くか、サンドイッチ状に交互に貼るか?
どういう比率で分ければいいか?多分、固める方が多いほうが良いだろう。
この問題が自分だけのものなのか、漆の仕事(の歴史)に関わる重大事なのか、ハッキリしない。

(4.7)木地に麻布を貼って日常使っていた椀が、木地の割れを受けたのか、麻布にまで亀裂が出て来たことがあった。
今考えると、麻布が漆を吸って脆くなっていた所為だろう。
総麻布貼り椀として作っていたし、いるのも、同様に脆くなっていることになる
木地自体がそれなりに丈夫なので、格別問題は生じないかもしれないが、今まで信じていた漆の仕事のやり方が間違いかもしれないという状況になった。
少なくとも自分にとっては、方向を見失ったというしかない。

4.9(金) 米糊と生漆の混合比と麻布の脆さの関係は?

*米糊を作る。お猪口に米糊を入れ、そこに生漆を足していきながら、大体の比率で糊漆を作る。
10:0、9:1、8:2、7:3、6:4=糊:生漆
麻布・・・高野のカヤ布、増村先生の時の目の細かい方、駕籠などに使った固い布。

4.10(土)

*10:0、9:1、8:2、7:3、6:4=糊:生漆
麻布・・・高野のカヤ布、増村先生の時の目の細かい方、駕籠などに使った固い布。
空研ぎ。乾いているものの右半分に布目摺り。

上、高野。下、増村。

駕籠用 裏から撮った写真

 

4.11(日)

*7:3、6:4の比の、増村先生の時のと駕籠などに使っていたのを空研ぎ。乾いていた。
右半分布目摺り。(前日の布目摺りも空研ぎ)

4.12(月)

*空研ぎ。下半分にリグロインで薄めた生漆を吸わせる。
米糊だけで貼ったままのところへは、よく滲んでいく。

4.13(火) 手で裂けるか?

ガラス板から剥がし、手で裂けるか確かめる。
縦・横・斜めとも、裂く事が出来ない。
斜めは裂けないが、縦・横からは裂く事が出来た。
×どの方向からも、楽に裂く事が出来た。

  10:0 9:1 8:2 7:3 6:4  
高野

カヤ布

 △布
湿り気
             ×     無し
 △布
湿り気
 △布
湿り気
       ×
楽に
   ×    × リグロイン生漆
増村

細か目

     ×  ×      ×  ×  ×  × 無し
   ×斜
少し
だけ
 ×  ×  ×  ×  ×  ×  ×  × リグロイン生漆
駕籠      ×  ×  ×  △斜
 ×  △斜
   × 無し
   △裂
難い
   ×  △斜
 ×  ×  ×  ×力
必要
 × リグロイン生漆
  無し 布目摺り 無し 布目摺り 無し 布目摺り 無し 布目摺り 無し 布目摺り  

高野漆行のカヤ布・・・布目摺りの影響を受けることがあるようだ。9:1or8:2

増村先生の時の目の細かい布・・・8:2のとき、リグロインで薄めた生漆を吸わせない場合のみ耐久性があるようだ。
しかし、今回だけの結果。通常の糊漆を使い、固い素地を作ることを目指した方が良いだろう。

駕籠などに使う固く、目の詰まった布・・・下地、リグロインで薄めた生漆のどちらか一方だけのときは、強い時もあるようだ。
漆とは余り相性が良くないようだ。

夕方、金沢の土谷ロープに電話し、麻紐を注文。
この前の土曜日に教えてもらった(漆の話 2004年版 参照)。
金沢市問屋町2-98 TEL076-237-5535 FAX076-237-5537
帝国繊維株式会社 孔雀印 16×5(前に買ったもの。 2500円だそうだ)
それを締めた細いのは1500円だそうだ。その2つを注文。送料610円だそうだ。

4.14(水) 木地の布貼り???

今回の試験の麻布を布の種類ごとに袋に入れる。3袋になる。
4.2のは、一まとめにして袋に入れる。現物を見ても、どちらが両側から糊漆をつけておいたものか分からない。
昨年9月から行った二枚貼り合わせ試験、一枚による布の歪む癖試験、小さい板に布を貼り、狂いを見る試験(狂わず、布の違いによる強さは分からなかった)も、一袋に纏める。
〔乾漆0310〕の雄型で浮いた布などを一番外の袋に入れ、そこに上の5袋を纏めて入れておく。
剥がれたときはまだ動き易かったが、1月近く経つと、かなり固くなっている。
素地の丈夫さは、弱めの糊漆で貼ることで得られる。
素地の固さは、通常の糊漆、布目摺り、生漆による固めで得られる。
素地が動いてはいけないから、丈夫さを求める貼り方は中心部に持ってくるしかない。
一番中心に固いものを置くべきか(その両側に弾力性を残して布を貼る)?

木地に布を貼るのが一番問題になる。
漆の歴史が間違いだったかもしれない?
補強に値しない仕事をしていただけなのかもしれない。
木地と漆の間を繋ぐ働きは十分ある。
木地の痩せこみを吸収し、木と漆の固さの差の違いを吸収する。

4.15(木) 今後の課題

7:15pm過ぎ、郵パックで麻紐が届く。
細い方は小さいと言っていたが、かなり小さい。
消費税分200円だけ高くなっていた。
前に買ったのは、通常の比率の糊漆でも耐久性がある。

固くないと素地として動くことになる。
どういう貼り重ね方が、脆さがなく(耐久性があり、丈夫である)、かつ動かない素地を作るのか。
素地と同じ貼り方をガラス板にしていく(テストピース)。
もう一つ同じテストピースの作業をし、毎回剥ぐって状態を確かめる乾き具合麻布が裂けるかどうか、、、

4.17(土) 麻紐のテスト

1.今までの(中の太さ)と、細い麻紐に生漆(そのまま)を十分吸わせる。
2.糊漆を十分にまぶしておく。(麻紐)
3.中国麻布と柔らかく目の詰まった麻布を硝子板に貼る。

4.18(日) 麻紐は切れない。麻布は裂ける。(米糊:生漆=5:5.5)

作業として―(上)糊漆 (下)生漆―を染み込ませる。
*ラミー玉糸(上の方が細く、下の方が中ぐらいの太さのもの)
*rami(マレー)〔植〕イラクサ科の多年生繊維植物。チョマの変種。…茎の繊維は水に強いので、船舶用の綱や魚網とする。〔広辞苑〕

(上)中国布…斜めは裂けなかった(下に置いてあるのが布)。
(下)柔らかく目の詰まった布…斜めにも裂けた(下に置いてあるのが布)。

4.22(木) また別の布で調べてみる。糊漆は通常のもの。

・輪島の橋久商店で買った、目が細かく、薄めの麻布。
・やや固めで目の詰まった、少し厚めの麻布(多分、高野漆行にて)。

4.23(金) 結果は、やはり駄目かも、、、


(左)下がもとの麻布(橋久にて)で、その上が縦・横・斜めとも楽に裂ける。
(右)縦だけ裂ける。横・斜めは裂けない。布目摺りをすればまた弱くなるかもしれない。

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