麻布二枚貼り合わせ試験(2003年9月2日−10月23日 )

乾漆の狂いは、平面に大きく現れる〕 〔同じ組み合わせでも、狂い方が違う場合〕 〔多分狂いが少ないだろうという予想
一枚を糊漆で固めれば、どう動くか〕 〔今までしたきた事から何が分かるのだろう?〕 〔乾漆を作り始めた頃のこと

左側を基準に、左が強い(中央が反対側に押し込む感じ−凹形)時、〇。弱い時、×
乾く間、置く状態をそれぞれ上下になるよう二つずつ作る。
結果が二つとも一致した場合に印をつける。
一致しない場合は、それぞれ記入する−〇:×:言葉で。

太陽熱に当てるとどう変化するか?

  B C D E F G H I
A 〇:×
〇:×

10

〇:×
〇:×

10


〇、一部反転

9

×:部分的に両側に歪み
両方とも×

6

    〇:×
〇:×反り

4

 
B   ×
×

11

〇:部分的に両側に歪み
〇:部分的に両側に歪み
(両方とも、反り)

7

〇:×
〇:×
(両方とも、反り)

3

  ×
×

8

×
×

5

 
C    

7

蚊帳が上側大きく×
反りが進む
中国が上側
一部反転

×(再試験)
×(反り)

3

×
大きな反り
×(反り)

2

×−やや
大きな反り
×(反り)

6

   
D       ×−大きな反り
×(反り)

2

       
E         ×−一つは
大きな反り
×(反り):
両側に歪む

2

     
F              
反りが進む

1

布の種類乾漆に主に使う布

A:(目)細かい   (厚み)薄い    (吉川さんより)
B:(目)細かい   (厚み)やや薄い (増村先生の細かい方)
C:(目)やや細かい(厚み)やや薄い (中国製麻布−高野漆行)
D:(目)粗い     (厚み)やや中  (高野漆行のカヤ布)
E:(目)粗い     (厚み)中     (蚊帳−布はそんなに古くない)
F:(目)やや粗い  (厚み)中     (蚊帳−古い)
G:(目)細かい   (厚み)やや中   (値段の高い麻布−高野漆行)
H:(目)中      (厚み)やや厚い (駕籠のかなえに貼ったりしていた…―高野漆行)
I:(目)粗い     (厚み)厚い    (山下さんより)

*H…「蒔絵 松田権六」(毎日新聞社)p10の写真と多分同じ麻布。(2004.1.30)

布二枚で固くなっている順

薄く、目の細かい布は狂いを防ぐ。しかし、乾漆には不向き。
厚く、柔らかい布は、狂うが固い。漆を吸い込むということか?

反り易い布・・・柔らかく、厚めの布?…(蚊帳−布はそんなに古くない)(蚊帳−古い)(値段の高い麻布−高野漆行)

型から外した時、動く性質はどうなるのだろうか?DNAの感じ?
素地として、別の動きをする?

乾漆の狂いは、平面に大きく現れる・・・アーチを支えるような構造を持っていない。
布・紐の欠陥・・・垂直方向からの力に無力。
麻紐を弓なりに貼れば?谷を埋めるように貼れば?
円筒形(パイプ)は、平面より耐性を持つ。
石膏型に布を貼り重ねていくとき、向こう側に押す力が働く(平面の中心部分で)。
型から抜いた時、各平面に働いていた力は、どう影響し合い、ある収束に達するのか?
素地として一体物と化すと、どこかが芯になり、内と外とが押し合うことになるのか?

何時までも素地が動くということは、そうする力が残っていることを示す。
冊子箱の甲が凹み、内から布を貼っても、外から貼っても、凹みが進むだけだった。
甲が一枚の板というか、隙間に差し込み遊びを持つ構造なら、理屈通り内から布を貼れば良いだろう。
甲に布を貼ったことによる動きが、側面に伝わることで逃げていくから、凹みは直らない。
食籠の場合は、底の動きと端の動きは連動しなかった。側面が長いことで、腰あたりで吸収された(歪んだ)のだろう。
蓋や懸子は、楕円の感じに歪み、平面と端が同じ方向に歪んだ。
通常の乾漆(5、6枚をバイアスに貼り重ねる)と二枚貼りの違いは、熱処理をした後、型から外した場合、前者は大きな動きをしないが、後者は熱処理をしない乾漆のように動きが残り続ける。
底が何時までも膨らみ続けた。何故か?
薄い麻布は、伸び縮みしないが、漆を含むことで断裂し易くなる。
厚い麻布は、繊維の弾力性を残すが、漆を含むことで大きく狂う。
蚊帳などの厚い布は1枚以上使ってはいけない。

hempとlinenによっても差がでるだろうが、ヨーロッパの麻で高級品だというlinenは持っていない。
帝国繊維の孔雀印の麻紐はlinenなのかもしれない。
細く、漆が染みても極めて丈夫である。

*「蒔絵 大場松魚」(アローアートワークス)p13には、「…まず最初に蚊帳に使った荒い編目の麻布を貼り、次に、今回は能登上布を貼ってある。」とある。
昨年11月の全国伝統的工芸品展で、近江上布をそっと触ってみたのだが、非常に滑らかだった。
高級麻布は、勿体無いかもしれないが、良いと想像できる。(2004.1.30)

窓際に放ってある、貼り合わせた布片を見ていると、同じ組み合わせでも、狂い方が違う場合がある。
麻布には、裏表がある−それが狂い方を変化させているのではないか?
裏の方が弱いから、余計に漆の影響を受ける?
9.7晩に、乾漆に利用する事が多い布で試験する為、貼り合わせる。
表と裏がハッキリしない布もあるが、何となく表の方が光を柔らかく受け取る。
裏の方が、幾何学的な模様を浮き出す感じがする。
貼り合わせる側同士を組み合わせとして表にする。
左側が表の、右側が表の
〇…左が強い。 ×…左が弱い。 △…引き分け。

C(中国製麻布−高野漆行):F(蚊帳−古い)

 

×大きく
×大きく
×
×やや
×やや
×やや

C(中国製麻布−高野漆行):D(高野漆行のカヤ布)

 


少し動く

少し動く

下の二つの試験は、多分狂いが少ないだろうという予想のもとに行う。

D(高野漆行のカヤ布):E(蚊帳−布はそんなに古くない)

 
×やや
反りが進む
 
  ×やや
反りが進む

D(高野漆行のカヤ布):I(山下さんより)

 
×僅かに
×やや
 
 

F(蚊帳−古い):I(山下さんより)・・・最初にした試験の貼り方を見て表にした。

 
   
〇大きく

裏表がハッキリしないことが多い・・・D(高野漆行のカヤ布)、I(山下さんより)
傾向として、表同士、裏同士が向き合うときは、力が均衡するようだ。
中国布と高野カヤ布は、同じ力−目の粗さは高野の方が粗い。

9月8日(月)に一枚を糊漆で固めれば、どう動くかと考え、また試験。
布の表裏がハッキリしない布もあるが、一応、向きが反対の状態で2枚ずつ固めてみる。

乾かすときの向き A C D E F (9/10)
両側に動く
変化なし
裏に弓なり
変化なし
少し動く
ほとんど変化なし
少し動く
表に弓なり
少し動く
また動く
表に弓なり
少し動く
裏に弓なり
少し動く
裏に弓なり
変化なし
ほとんど変化なし
少し動く
ほとんど変化なし
少し動く
また動く
表に弓なり
少し動く
裏に弓なり
両側に歪み
少し動く
変化なし
9/14に見ると
(高温・太陽)
大きく歪む
(裏の方)
大きく歪む
(裏の方)
大きく歪む かなり歪む 大きく歪む かなり歪む
(裏の方、変化なし)

硝子板の上に糊漆、布、その上に糊漆、裏返して箆で糊漆を均す。それを裏返して、別の硝子板に置く。
何時間後かに糊漆で付いているのを剥がし、裏返して乾かす。
更に数時間後、また裏返して置く=最初に乾かしたときの向き。
*変化は小さい。予想外だった。(9/9)
*9/10天気は曇り一時雨、少しだけ晴。変化についてはもう少し待つ必要がある。

9月11日(木)、湿度は高い。太陽が顔を出していたこともあるが、豪雨もあった。
今までしたきた事から何が分かるのだろう?
石膏原型に貼るとすれば、こうした布の動き方がズーッと影響力を持ち続けるのだろうか?
二枚の貼り合わせは、二つの間での漆の影響の受け易さを示すだけだ。
布自体が持つ性質、漆と組み合わさった時の性質、伸び縮みをさせて布を貼った時の性質、、、
乾かすときに置いた向きの反対に動いた場合は、自らを持ち上げる感じで硬化したことになる。
貼る時は一枚ごとに硬化させ、布目摺りをしていく。二枚貼り合わせとは違う。
立ち上がりを一枚で作るときに使うべき布はC(中国製麻布−高野漆行)、D(高野漆行のカヤ布)ということになる。
甲・底を強化する布はどれか?補強だけの為にはH(駕籠のかなえに貼ったりしていた…―高野漆行)
B(増村先生の細かい方):E(蚊帳−布はそんなに古くない)。但し後者は向きがあるかもしれない。
ここに上げた5枚が良いのかもしれない。

9/12(金)曇時々晴れで、熱が加わった。
熱で動くということは、石膏に貼り付けてあっても、そういう風に動きたいが、動けない。
そのエネルギーは、熱が冷めることでまた外へ出て行くのだろうか。
貼った後硬化するまでの間に動くものは、熱でも動く傾向にある。
貼り方が大切だということだろう。
無理に一枚で貼ることが、狂いの原因の一つかもしれない。

9.23(火)秋分の日

日中太陽の熱を受けている間は、布が余計に反り返っているように見えた。
熱が来なくなれば、そのうちに少し戻る感じがする。
熱処理とはどういうことなんだろうか。
麻布を処理するということでないことは明らかだ。
漆をより強く固める。
布でも皮でも、一度固めたもの(素地)が、漆や熱によってまた動く。
漆による動きを、もう一度型に嵌めて熱処理し、漆を固める。
漆の影響が止まっても、型から抜いたまま、もう一度熱処理をすれば、素地はどうなるのか。
布の熱処理が出来ない以上、上で実験した動き易い布で作った素地は、動くのではないか?
薄く、力の弱い布で貼り重ねた素地なら、漆の力だけで守ることができる気がする。
できるだけ漆で作ったのに近い素地が理想なのかもしれない。

10.1(水)

誰にも習わず、乾漆を作り始めた頃のことを思い出すべきなのかもしれない。
腕を伸ばすには、難しい・精密な作品を作ってみるしかないだろう。
技術的にも、デザイン的にも独自なものがないかと、焦っている。
乾漆で何がしたかったのか?まだ13年前のことだ。
展覧会に惑わされてばかりいるのではないか、今は?

石膏雌型で作っても、結局、後から形を直しているということは、雄型で作るのと何か差があるのだろうか?
雌型と取ると、少し膨張するし、三ツ割にしても元の雌型には戻らない。
単に腕が悪いだけかもしれないが、乾漆の原型は雄型の方が良いのでは?

漆を吸うことでの素地の動きと、太陽熱に当たる事による素地の動きは違う。
更に高温での熱処理での動きは、それとも違うだろう。
乾漆はそのどれにも耐えられる必要がある。
時間の経過だけでは、素地の狂いを止めることが出来ないのではないか?
単に二枚貼りに拘るのは、正しい道ではない。
狂わない最低限の仕事とは何かを知ることが、技術上の問題である。
二枚では、強度に欠ける。このことだけは確かである。
麻紐を併用しない限り、二枚では実用に耐え得ない。
自分の仕事としては、蓋と身を合わせるという点で、それが可能でないものは、技術に値しない。

10.2二枚貼りでの作品が全く不可能とは思わないが、熱処理を3回程する覚悟がいるだろう。
何となく蚊帳が乾漆に一番向いているのではないかと思っていたのだが、狂い易いと知った。
布の表裏が本当にあるのかも自信がない。
使ったものは、どちらかが擦り減っているから、擦り減っている方は、漆を吸い易い。
そちら側が強い感じになるのは自然のことだろう。
二枚で力を向き合わせて、力を殺すのはどうか、と前から考えている。上の表、参照。
兎に角、枚数を減らす時は、どういう布を使うかが一番問題だろう。
現在のところ、ハッキリしない。
薄い布を貼り重ねるのが一番正しいのだろうとは推定できる。

10.23(木)

9月8日に一枚を糊漆で固めたまま、窓辺に放ってあったのは、その後あまり動かない。
何時かは収まるということだろう。
今日、着払いで、麻布二枚造りの「乾漆食籠」(URUSHIの仕事V、Wの乾漆M)が戻ってきていた。3650円だったらしい。
箱から出してみると、朱の蝋色は十分上がっている。
痩せこみも思ったほどひどくない。
それでも痩せこんでいるから、黒の蝋色のまずさや隅の仕事のまずさが目立たなくなっている。
懸子が少し小さすぎて、立ち上がりの上でぐるぐる回ってしまうのは、やはりまずいだろう。
それぐらいかと思っていると、合い口が開いているではないか。
この作品の場合、身が狂ったら、合わせるのに苦労すると、合い口付近を重点的に熱処理していた。
擦りガラスの載せると、蓋に1mmほど浮き上がっている部分があった。
あれだけ動きを収めたつもりでも、まだ動くということだ。
平面を支える力が弱い欠陥、そこは布2枚では無理だ
朱の蝋色は勿体無いが、塗り直し、塗り立てにする予定。
懸子は、付けない。セットにはしない。
乾漆Fは、歪みがひどすぎ、時間をかけて直すしかない。
貼り足し、硬化してから、狂った部分の布を切り取ると、また狂った形に戻るのだろう。
大体は、平面の凹みを直したが、その後の仕事に自信が無い。
木地なら、布を貼り足した反対側に反り出すのに、乾漆の場合はそうならない。
ある時までは動きまくり、急に動きが収まる。
そしてまた動いている。

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