研ぎには、水研ぎと空研ぎがある。基本は水研ぎである。
空研ぎは、乾漆素地を作る途中で、次の作業との繋ぎとして行う。布など水に濡れると困る場合にも空研ぎする。
空研ぎと水研ぎは、下地の刷毛付けと箆付けに類比できる。
前者は荒く、大体平均した厚さを作る仕事に向いている。
後者は滑らかで、形を直す仕事に向いている。
*形を直す場合、大雑把に直すのなら、空研ぎや刃物が向いている。
実際には、そういう方法を使わざるを得ないような仕事をしていてはいけない。
*ヤスリ(仕上げ用)を使っての修正は、基本的な形にもっていくのに向いている。
*水研ぎは基本的な形が出来ている場合に有効な方法である。
作りたい形に合わせて、砥石の形を作り、手がぶれないように正確に動かして、めざす形を作り上げるのが研ぎの仕事である。形に中心があるのに合わせて、研ぎもその中心を意識して研ぐ。
力の入れ具合は、砥石が研ぎ面に密着する程といえる・・・多少、力を入れ気味
乾漆の場合、特に熱処理をしていない場合、素地が柔らかい感じ(力を加えると素地が動く)になるので、注意を要する。
研ぎに力を入れすぎると、素地も動き、思ったとおりに研げない。目の粗めの砥石を使い、力を抜き気味に研ぐ。
実際には、弾力性を少し残すため、熱処理しないほうが使う上では優しい。
◎基準となる砥石の平面の作り方
経験的にもっとも簡単な方法は、擦りガラスと水研ぎ用ペーパー#180を利用する。
擦りガラスに水でペーパーをくっつけ、片手でそれを持ち、もう一方の手で砥石を研ぎこむ。
ペーパーを何度か換えることで、ほとんど平面になる。
金剛砂砥とそれより少し目の細かい荒砥で、それぞれほとんど平面が出来た時、互いに擦り合わせる。
順に細かい砥石へと、平面を作っていく(キング#1000、#1200、仕上げ砥)。刃物を研いだ時、こまめに平面を作り直していれば、それに越したことはないが・・・
*厚めのガラスが平面であるとは限らない。坂下先生によれば、鏡を利用するのが最もよいそうだ。
◎刃物(塗師屋刀)の研ぎ方
NHKテレビで、0.03ミリのカンナの削り屑を削りだすことに挑戦する番組を今年(2001年)4月頃に放送していた。
鉋の刃が研ぎあがった時に、砥石がぴたりと吸い付いたようになり、持ち上がった。
別の番組では、超精密加工をする機械を作り上げるため、(何ミクロンだったか忘れてしまったが)ほとんど誤差のない水平面を作る過程を放送していた。
溝を付けた基準となる(たぶん絶対平面である)金属〔一般の研ぎの場合には砥石に当たる〕にわずかに油分をつけ、慎重に研ぎ合わせ(少しずつ)、くっついて動かなくなる直前でやめた・・・この場合、完全に密着すると離すことが出来なくなるので。水平な砥石(まずキング#1000から始める)で、裏刃を水平面になるまで研ぐーーーそれ専用の金属製のものがあるそうだが、よく知らないので、知っている人は教えて下さい⇒
研ぎ面がぶれないように両手を決めて面を作る。裏に出たバリを取る。
より目の細かい砥石で、同じように研いで行く。
◎鋏の研ぎ方
素人は鋏を研いではいけない、と言われる。乾漆素地を作るため布を貼る時、余分な布を切らなければならないが、当然鋏の切れがよくなくてはいけない。
ホームセンターの説明書きには、鋏の場合は研いで裏にでるザラザラはそのままにしておく(裏刃を研ぎなおしてそれを取ってしまわない)とあった。
片刃の刃物は、裏刃を真っ直ぐに研ぎ上げておくべきだといわれる。科学的なことはあまり強くないので、理由は分からないが、裏刃がしっかり付いていても、そちらの側から物を削ることは出来にくい。刃先を斜めに付けた側できちんと削っていく。
この二つのことを実行すれば、鋏は研げることになる。
裏刃をきちんと研ぎ上げる。刃先に向けての斜めの面を一定に研ぎあげる。裏に出たザラザラはそのままにしておく。全く研がないよりは、薄い紙でもよく切れるようになる。
◎形を決めるための砥石
輪島市の橋久で買った#280の人工砥が便利である。細く切った状態で売っているので、それを手ごろな大きさに切る。作りたい形の、反対の形に砥石を加工する。使ってみて、少しずつ調整する・・・多少緩めに作るand研ぎ方で形を作り上げる。
*橋久商店 輪島市鳳至町上町88 TEL0768−22−0780 ビンツケあぶら(付く用)も売っている(本物)。
◇空研ぎ
乾漆素地を作るときは、空研ぎで工程をつないで行く。#80か#180ぐらいのペーパーを使っている。
その時出る粉を集め、#80か#120の篩にかけると、地の粉として使える。輪島地の粉が手に入らなくなってから、この方法で残り少ない輪島地の粉をかなり節約した。
形が下地の段階でキチンと出来ているなら、キング#1000などで水研ぎすればよい。
作りたい形をめざして、研ぐ。平らなところは平らな砥石を使い、丸いところはそれに適した物を使う。
#360ペーパーなどを丸いところに当て、砥石を器物に合わせる方法がある(増村先生より)。
道具が出来ても、それを正確に使わないと、とんでもない形に研いでしまうことになる。
基本は、(目指す形より)出ているところを研ぐ⇒足りない部分は錆び下地で埋める。
形がかなり狂っている時は、粗めで、少し大きめの砥石で研ぐ。
見た目に正確に研げたとして、更に引き箆や分度器、定規などを使って狂いをチェックする。
◇中研ぎ
地研ぎをした後、もし下地の漆分が少ないなら、生漆をリグロインで薄めたもの(リグロインは浸透性が高く、揮発性も高い。揮発後にゴミが残らない)を染み込ませて余分の生漆は拭き取る。
乾いてから軽く空研ぎし、くいつきを良くしてから中塗りをする。漆によって乾き具合は極端に違う。気温が25度ぐらいとして、湿度が53%ほどで乾く漆もあれば、70%以上であっても一日たっても乾かない漆もある。兎に角、完全に乾くのを待つ。
普通は静岡炭でゴミと刷毛筋を消すように研いでいけば良いのだが、乾漆の場合は微妙な形を作る必要があるので、そう簡単にはいかない。
中塗り(普通は黒漆でする)をしてみて初めて、地研ぎの状態がはっきり見えるようになる=形がはっきり見える。
名倉砥、三和クリスタル#600 or#800などを、形を研ぎ上げるのに適した形や大きさに加工する。
上記の「◎形を決めるための砥石」である、人工砥#280 ,#360 etc.も適宜利用する。
鎬の線を作るとか、隅を作るとか、弓なりの線を作るとか、特殊な砥石をいろいろ工夫する必要がある。足りない部分を錆び下地で埋め、乾いてから余分の錆びを研ぐ・・・中錆という。少し広めにつけ、段が出来ないようにする。
もう一度、中塗りをする。中塗りは、研ぎで出来た形を壊さないため、できるだけ薄く塗る。
目指す形を求めて、また中研ぎをする。一回目と同様。
何度か、中研ぎと中塗りを繰り返して、目指す形になってから静岡炭で中研ぎをする。
静岡炭の木目(年輪)が、研ぐ方向(炭の動く方向)に垂直になるように使うのが基本である。
⇒木目を研ぐ方向に動かすと、櫛の歯でつつくのと同じようになり、傷がつきやすい。
◇小中研ぎ
小中塗りが乾いた後、中研ぎに用いた静岡炭よりは小さい静岡炭で、塗りを研ぎ破らないように気をつけて研ぐ。
研ぎあがったら、生正味漆で拭き漆をし、拭き切っておけば、上塗りの時にゴミが付きにくい。
◇蝋色研ぎ
蝋色研ぎは、上塗りで残る刷毛筋とゴミを消すことを目的にしている。
大きなゴミがついている場合、#2000ほどのペーパーでかるく山をつぶしてかかる・・・必要なら乾かす。
まず小中研ぎに用いたほどの静岡炭、次にもう少し小さい静岡炭で、傷をつけないように研いでいく。
僅かに研ぎ残しが見える程度まで静岡炭で研ぎ、残りは蝋色炭で研ぐ。
細かく回して研ぐ。このときも傷をつけることが多い。
通常は、静岡炭で研いだ段階で、生漆を摺り込んで固める。乾いてから、蝋色炭で研ぎ始める。
摺り込んだ生漆の色がなくなるぐらいが、大体の研ぎの目安である。
◇クリスタル砥石
中研ぎの場合・・・三和の#600、#800が適している。
蝋色研ぎの場合・・・カネボウの#1500、#2000、#3000が適している。
蝋色炭が使いこなせない身には、#2000、#3000のペーパーも役に立つ。
◎蝋色炭に興味のある人は、金沢の坂下直大先生に相談して下さい。
921-8034 金沢市泉野町 1-13-26
TEL 076-242-4560金沢卯辰山工芸工房でもよいかもしれません。