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乾漆素地

(麻布貼り

 

どういう布を貼っているか、について教えてくれる人はほとんどいない。増村紀一郎先生の研修会の時だけ、弘前市の(有)フジタ総合資材(TEL 0172-34-8304)で扱っている麻布を手にすることが出来た。写真などは増村益城先生のビデオや作品集(図録)で見てもらうしかない。予想以上に目が粗い感じである。

麻布は一日ほど水に浸けておき(風呂の残り湯でもよい)、干す。縮ませておくためである。
皺がより過ぎて気になるなら、アイロンをかける・・・精密に貼る場合や目が細かい布の場合。
*洗っても縮まない布は、そのまま使用しても良い(2004.3.17)

私が主に使うのは、金沢市の高野漆行(〒920-0918金沢市尾山町2-38 TEL076-221-0190 FAX076-221-0700)で扱っている蚊帳布・・・目の粗さが中ぐらいで、かなり柔らかい。
出品作はその布を四枚ほどを芯にして、両側に目がかなり細かく、柔らかめの布を貼っている。
それ以外は昔の古い蚊帳を使うことも多い。

昔の乾漆作りの像などは、かなり布を細かく切って貼っているそうだ(加藤寛先生)。貼りにくいところは無理に一枚で貼ることはない。どうせ布が重なるところは切り目を入れるのだから。布が切れている場所がズレていることの方が大切である(前に貼ったところ、次に貼る場合)。

布はできるだけ緩く貼る。布に無理な力を加えたまま貼ると、素地が狂うもとになる。
前の布目と、45°斜めになるように(バイアスに)貼る。

下地面を空研ぎし、形を整えるとともに、くいつきを良くする。
よほど貼りにくい所を除けば、基本的には一枚の布で貼る方が作業がし易い。
2,3センチほど大きく布を切っておく。
前述の、普通の糊漆を刷毛で普通の厚さ(やや薄目がよいが、吸い込みがあるので)に渡す。
一枚目は、目の細かい布を貼る。上から被せるようにしておき、布の厚み分ほど少し多めに糊漆を渡して平地をくっ付ける。側面はほぼ90°毎に布の重なりを作り、それ以外のところを糊漆を渡して大体くっ付ける。布の重なり部分をハサミで切る。切ったうち、きれいな線のほう(その様に直しても良い)を糊漆を渡して貼ってしまう。もう一方の側をそれに重ねるように貼る・・・重なりを少しだけにし、余分な布のところに糊漆を渡さない。
こうした作業の内に、持ち上がって浮いてくるところがあるので、糊漆を渡し過ぎないように注意して、きちんとくっ付けておく。
*雌型に貼る場合、蓋の甲に当たる側をまず貼ることになるので、まずその部分だけ目が細かくて、極めて薄い麻布で貼っておくと痩せこみ防止になる。

完全に乾いてから刃物で布の重なりを切り取る。端から出ているところも。
軽く空研ぎをする・・・布の重なりが残っている場合は研ぎ潰す。
切り子地か錆下地で布目を埋める。
形を整える程度に空研ぎする。

空研ぎは、荒砥ですべきである。
#40、80のペーパーで楽に空研ぎすると、浮いているのに気付かない。
荒砥で空研ぎすると、浮いている場合、音が乾いていないので気が付く。(2004.3.17)

二枚目は目の粗い布を貼る・・・平地部分はバイアスに。側面は布の重なりを前と別の面でする。上記の作業を繰り返す。
この後、平地部分にだけ布を貼る(こともある)・・・布の枚数が多いほど丈夫であるが、厚くなるので側面と差をつけるのだろう。全体に貼っても、端付近を削って細く見せる方法もある。

三枚目、四枚目は二枚目と同じ。途中にもう一枚平地だけに貼る。
☆貼る枚数は大きさによって変える。枚数が増えると重くなる・・・重くなる原因は布目擦りに使う下地にあるのだから、それを省略して軽くする方法もある。
浮いているのに気付いたら、切り取り、新しい布をその部分に貼る・・・糊漆を渡し重石などの方法でそのまま直しても、布が漆で固まってしまっているので良くない。
★布目擦りに、糊漆と地の子を混ぜた下地を使えば、少しの浮きなら収まってしまう。
◎浮かせないためには、緩く貼る。隅などに無理に押し込まず、そっとくっ付けるようにする。糊漆を厚くしすぎて、膿んでしまうようなことをしない。布を小さく切って使う。
◎四角い箱の内側の角隅に布を貼ることを考えてみれば、浮きやすいのは明白であろう。この場合は、外側に補強用に布を貼れば充分として、内側の平地と内脇は別々に貼れば良いとされる。しかし、そんな難しいところに布を貼ってみたくなるのが作り手根性である。その結果、失敗しているのがほとんどである。自然に考えるならば、この経験が布だけで素地を作る乾漆技法を発想させたとなるのではないか・・・

和紙を貼る工程がある以上、麻布ではなく、木綿を使うことも全面的に否定することは出来ないかもしれない。ともに漆を吸い込みすぎることが、漆を生かす面では長所として現れるが、麻布のもつ柔軟性を欠くという面で耐久性に欠ける。何年間か使うだけとか、修理して使っていくと考えるならば、ここまで拘る必要はない。しかし、技術の面からは、外界の気候や沸点(異物混入による沸点上昇もある)に対応できる構造をもつ漆製品には麻布を内部にもつ必要がある。浮きとか、厚さのムラがない仕事がしてあれば技術的には十分といえる。

芯になる麻布は三枚か四枚が普通である。それからまた目の細かい麻布を貼る。
布を貼る毎にする布目擦りをして麻布貼りの工程が終了する。

★2001年3月、熱処理を開始すると、プクッと膨らんできた。麻布4枚目を貼った糊漆が乾き不十分だったのだ(和紙の2枚目も乾き不十分で浮いてきた)。空研ぎの音で乾き具合を確かめていたつもりだが、見逃したようだ。糊漆が薄いと、くっつかないし、厚いと膿んでしまう。冬場は、糊漆で貼った後、まる2日間何もしないようにしている(布を貼った時の布の重なりだけは取っておく)が、それでも不十分のようだった。
糊漆の漆分を少し弱くすれば良いのか。適正な厚みを知るべきである。

(2002.3.27)石膏原型の内側に布を貼る時、一番浮きやすいのは、底から隅の丸みにかけてである。
底の周辺部を貼る時、中心側から貼り進むようにしてみた。
側面側から布を押さえるようにすると、側面側に布を引っ張るようになり、内隅で浮いている事が多い。
側面の布を切り分けるところも、その時の布の伸び具合を見て、無理がかかっているところを切るようにしてみた。

2004年重大な問題点が出て来た

失敗の記録(2004.3. −)

2005年2月 まず糊漆を渡し、布を置く。その後の作業の工夫

雌型

身付きの中央辺りから貼り始め、徐々に腰辺りまで糊漆で貼っていく。
そのまま、身付き側から内腰部分まで糊漆で、浮かないように見ながら、貼る。
内脇を貼るとき、布の捲くれ上がっているところに切れ目を入れる。
少しずつ、指先で布を内脇(石膏原型)に馴染ませていき、布が浮き上がる感じの所に次の切れ目を入れる。
幾つかそんな感じに切れ目を作ってから、内腰付近が浮かないように糊漆で貼っていく。(セットの感じ)
その場合、刷毛を
横方向に動かして、布へ垂直方向(身付きと端方向)の力を加えない。

雄型

雌型同様、外脇を貼るとき、布の浮き上がりの感じが見えたところに切れ目を入れる。
平地側(甲とか底)から浮きが無いように押さえ始め、
横方向に力を加えるように貼っていく。

2006年3月 糊漆をもう一度薄く渡し直す&注意深く浮きを見つける

漆の話2006年版 3月25日(土)・26日(日)&3月19日(日)

2008年2月 昨年だったかの、香合の甲面で浮きが出たショックで、更に細かい点を直そうとした。

漆の話2008年版1月27日、2月3日、2月9日にかいたのをコピーする。
1.27…糊漆を合わせ直すと、新しい所為か、刷毛で伸ばしてもムラなく渡る。
昨日と今日、石膏雌型の身に麻布を貼ってみたのだが、まず、見込を貼る。
半分ずつ持ちあげ、麻布の裏に糊漆のくっついていないところに糊漆を付ける。
石膏側に糊漆を渡し直し、浮かないように麻布を押さえ直す
次に腰から側面にかけて貼っていくのだが、2辺分ぐらいに糊漆を付け、麻布を重なりを作りながら貼る。
布の重なりをハサミで余裕を残しながら切り、貼る。
両側を切り分けた布を捲り、糊漆をつけ直し、浮きが出ないよう貼り直す。
そんな感じで隣へ移っては、貼り続けた。
1時間半かかったが、見た感じでは浮きはないような、、、?
2.3…石膏雌型2個に麻布を貼ったのだが、最初のは2時間15分ぐらいかかる。
部分ごとに丁寧に貼り、捲ってはまた丁寧に貼り直した。
疲れたので、楽な蓋やホタテガイに麻布を貼ってから、また身にかかる。
どうせ捲り直すのだからと、内脇を大体貼っていき、余分の布もかなり切り取っておく。
それから捲り、貼り直すと、全体で1時間ぐらいで終わった。
見た目には大丈夫な気はするが、乾くまでははっきりしない。
2.9…
空研ぎをしてから、麻布貼りを始める。
一度貼ってから、捲り直し、麻布裏の白いところに糊漆を渡し直し、素地側にも渡し直し、貼り直す。
麻布裏に糊漆の付いてないところが散見されるのを見ると、今まで、「また浮いていた!」と何度も苦しんでいた原因が分かったといえる。
捲った後貼り直す際、捲る前の位置に麻布が来るように調整するのが大切な点である。
あとは貼り直しがきちんとできているか見直すこと。
2.14
コピーし、赤い文字で書いたところが大切な点であろう。
捲る前の位置に貼り直すのは、かなり難しい。
端のところを捲る前の所に合わせても、その間の面は皺がよったりしてしまう。
下から順に馴染ませる感じに貼り直すのだが、間の面と両端のところがバランスよくなるように貼り直さないと、ずれたり、浮いたり、皺がよったりとうまくいかない。

平面の場合は、繊維の方向が縦糸(経糸)の状態で捲るようにすれば、布が伸びず、狂いが少なくなる。
定番とか硝子盤上に糊漆を渡し、そこに麻布を置き、更に糊漆を渡して、それを持ち上げて素地に貼る方法の場合も、そうすれば伸びが少なくなる。
麻布の繊維がバイアス(斜め)方向で持ち上げると、一番伸びて、元の形から狂いが大きくなってしまう。
端周りとか、貼り難いところはバイアスに貼るというのは、逆にその伸びを利用し、形に合わせることができるからである。
木目にバイアスに貼るとか、前の貼り方とバイアスに貼るというのは、全く別次元の話(補強)。
2.23(土)
糊漆が素地側(貼りつける面)に、少しだけ吸い込まれるので、少し時間をおいて、また渡し直す方が良い。
単純な面なら、吸い込まれる分を薄く渡し、1分後ぐらいに厚めに渡し直し、布を貼る。
身の雌型に貼るように、時間がかかることが分かっているものは、最初から厚めに渡しておくしかない。
どちらにしても、下に厚めに渡してあっても、布目から上にはみ出てくるから、不都合は無い。

身の雌型の内脇の貼り方を纏めてみる。
細かすぎるほどまで拘る必要はないが、大体正確に貼ってかかる方が、後からの作業上、都合がよい。
余分な布をほぼきちんと切り取ることができる。
捲って、貼り直すとき、元の位置に戻す目安が正確になる。
*和紙なら上から糊漆を渡しても、下に吸い込まれるが、麻布の場合は、上から渡しても、布の下にはまわらない。
*薄貝貼りで、貝の下の漆は乾かないままなのに、周りの漆が乾くので、貝がくっついているというのと同様、麻布でも、下が白くても(糊漆が回っていなくても)くっついてくれることは幾らでもある。
多少の浮きは、布目摺りの下地が布目の間(上手くいけば、布目の下にまで)に収まれば、問題無くなる。
BUT完全に貼られていることが、長い年月の耐久性を考えると、一番大切である。
最初に厚めに渡しておくことが、失敗の可能性を低くしてくれる。

2010年に思いついた方法

研ぎ面に糊漆を少し厚めに渡しておく。
1分程(それ以上でも良い)待つ
研ぎ面の状態により吸い込まれるところが出てくるので、糊漆を渡し直し、均一に均す
麻布を載せ、糊漆で貼る。
布が糊漆で埋まらないところには、上から糊漆を渡し、均す。
布は緩めに貼り、上から糊漆を均すときは、布が動かないように注意して行う。
*摺り渡しの時の作業から類推した。

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