ST翻訳概論
●ここに挙げるものは、100%
yonetchの私見です。ワタシは翻訳者側の事情については詳しくありませんし、考慮してません。そして、敢えて翻訳業界の楽屋ネタを調べるツモリもありません。ですから、「業界のコトを知りもしないでナニを偉そうに」というプロの方(あるいは事情通の方)は大勢いらっしゃるでしょう。
●しかし、ワタシは飽くまで視聴者側の視点で『ツッコミ』を入れて行きたいと思います。そう、視聴者(消費者)はスタッフ(生産者)側の事情なんぞ知ったこっちゃナイのです。現実に気になるところがあったからこそ「ツッコミ」が入っているのです。ご理解ください。
●まぁそんなワケで、気に障ったカタは、シロートの駄文と思って聞き(見?)流してくだされば...
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一貫性の重視
- 訳語は、最初に訳したモン勝ち的なところが多分にある。最初にChief Engeneerを「機関部長」と訳したら、原則としてそれを踏襲すべきである。シリーズ物なのだから、後で「チーフエンジニア」なんてカタカナにするのは避けるべき、とワタシは考える。他にも言葉の整合性等を考慮するとヘンな訳語はたくさんある。しかし、ある程度浸透した用語は、多少異論があっても一貫性を優先すべきだ。これを名づけて『訳したモン勝ちの法則』と呼ぶ(←そのマンマやんけ!^^)。
- 固有名詞
- STに限らず、翻訳において最もアタマの痛いモノのひとつが固有名詞であろう。最も単純な手法は原語をそのままカタカナ化することだが、誤解を恐れずに言えばコレは不可能なコトだ。音を拾って「メリケン」か、スペルをとって「アメリカン」か?どちらが正しいかという議論に、永遠に結論は出ない。翻訳家の判断に委ねられるトコロである。
- また、元々英語でない単語が英語読みされているケース。コレは原則(英語でなく)原語読みに従うのが普通だ。例えば艦船の名前にはギリシア神話から付けられたものが多い。そこで「the Prometheusを「プロメテウス号」とするのは然程難しいことではない。だが「Promethean Crystal」だったら?とたんに「プロメシアン水晶」になるのではちぃと情けない。
- しかも、この「普通」というのでさえ、機械的に従うことは危険だ。現にTOSの「Chekov」は、ロシア読みなら「チエホフ」だが、そのまま英語読みで「チェコフ」となっている。とにかく適切と思われるモノを「センス」で選ぶ必要がある。正解などないのだ。
念押: とはいえナー、一貫性ダケは忘れるなヨー。それを欠いたモノなど、もはや「仕事」とは呼べんゾー
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階級、役職
- 階級に関する用語は、すべて慎重に扱わねばならない。captainだったら艦長(役職)なのか、大佐(階級)なのか?文脈からの判断がとても重要である。どちらでもいい場合もあるが、選択を間違うとドッチラケになる場合もある。
- また、同じ階級の士官が出たとき、一方は役職、他方は階級で呼ぶべきときもある。とにかく、安易に辞書訳しないこと。
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下級士官と下士官
- 階級に関連しての補足であるが、新人少尉などを指して「下士官」と吹替える例が散見される。逆に、単なる技師なのに「下級士官」としているところがある。字面から、下士官を下級の士官と間違えやすいが、両者は別物なので特に注意が必要である。
- 宇宙艦隊では原則として少尉以上(通常艦隊アカデミー出身)が「士官」、それ以外は「下士官」である(准尉という階級もあるようだが、ほとんど出てこない)。
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STにおける下士官は、階級章もなく単に"crewman"と呼ばれることが多い
(TOSではさらに限定的に"yeoman"がほとんど)。つまり劇中で"crewman"と言った場合、一般的な「クルー」でなく、「下士官」を意味するので、気をつけたいところである。
追記: "crewman"は、「下士官」よりさらに下の「兵卒」クラスであろうとの指摘あり。公式設定上どうなのか現状不明。訳語として、軍でない宇宙艦隊に「兵」というのもそぐわないから言及を避けられているのだろうか(^^)。
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尊称(1)
- 原語では、階級でなく単にMr. Worfのように呼ばれることが多い。その際は「ウォーフ少佐」のように正しい階級に置き換えること。階級は、変わったりエキストラで資料がない場合があるので注意(ちゃんと階級章を確認する)。
- また下士官で「Mr.〇〇」と呼ばれているときは、単に「ミスター・〇〇」とするのがよいだろう(私見だが)。少なくとも「〇〇君」よりはいいと考える。ちなみにオブライエンに関しては、階級章もコロコロ変わるのであまり悩まないのが得策である(^^)。【関連】DS9"STARSHIP DOWN"(邦題:ディファイアントの危機)
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尊称(2)
- 英語における尊称というものは、ファミリーネームにしかつけない。つまり、Mr.
O'Brienとは言っても、絶対にMr. Milesとは言わない。これは、階級などで呼ぶ場合も同様だ(Captain
Picardとは言っても、以下略^^)。
- また、さほど馴染みのない相手をファーストネームで呼ぶこともあまり一般的でない。当然ながら原語ではこの辺は常識的用法であるにもかかわらず、吹替えはかなりデタラメな場合がある。気をつけたい。
補足: 「ネメシス」のDVD特典映像を参考資料として紹介したい 。別バージョンのエンディングで、新任副長がピカードへの接し方についてライカーに助言を求めるシーンがある。ライカー曰く「フランクにジャンリュックと呼べ」。それに従った副長がピカードに睨まれるというオチだ。いきなりファーストネームで呼ぶことは普通でない、という証左である。
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敬語
- 英語における、最も単純な敬語の使い方として「sir」がある。「イエッサー(Yes,
sir.)」のアレである。誤解を恐れずに言えば、とにかく最後に「sir」を付けておけばとりあえず敬語になるのだ(^^)。劇中、うっかり失礼なことを言ってしまって、慌てて「sir」をつけて取り繕うというのはよくあるパターンだ。
- こういう敬語の形式は、日本語にはないものなので、翻訳がちょっと難しい。普通に「sir」と出ただけなら、階級に置き換えるのが最もシンプルだろう(「Aye,
sir.」を「了解、艦長」のように)。しかし前述の、慌てて取り繕うシーンなどは...
なかなかその雰囲気までは反映させられていないのが実に残念。
補足: 取り繕う例の最たるものとして、 TNG第2シーズン"THE ICARUS FACTOR"(邦題:イカルス伝説) において、ウォーフがデータに対して「Be gone!! Sir.」と言うシーンがあった。上官であるデータに対して「失せろ!」と言ってのけたのは血気盛んな頃のウォーフらしいが(^^)、後にsirを付けるというのも...(^^;;;) ま、この場合取り繕うというよりは、堂々と形だけは敬語ということにした、という感じだったが。ついでにもうひとつ。そのデータだが、TNG第1シーズン"LONELY AMONG US"(邦題:姿なき宇宙人)において、シャーロック・ホームズに感化され、ライカーに対して「My dear Riker.
Sir.」といったことがあった(「My dear〜」はホームズが「ワトスン君」と呼ぶときの定型)。
- この敬語の使い方、一般的に対象が男性か女性かで異なっており、男性の場合は「sir」、女性の場合は「ma'am」という。後につけるだけ、という用法については全く同様で、単に対象の性別で使い分ける。
- ただし、である。宇宙艦隊の場合は、性別に関係なく「sir」を使うことが流儀のようで、通常上官と話す場合は性別に関係なく「sir」を使っている。
補足: 飽くまで「宇宙艦隊では」ということのようです。本件に関して、ご指摘いただいた無銘様より、さらに詳細な研究論文を寄せていただきましたので是非ご覧下さい。
- ところが再度ただし、である(^^)。VGRではジェインウェイ艦長を「ma'am」と呼んでいるではないか、という反論があるだろう。これはVGR"CARETAKER"(邦題:遥かなる地球へ)冒頭でジェインウェイが「sirと呼ばれるのは好きじゃない」と、ma'amを使うように指示しているのだ。
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本来sirと呼ばれるべきだが、敢えてma'amと呼んでいるというコトを踏まえて見るとVGRでの(原語)台詞のやりとりも少し違って感じないだろうか?(^^)
補足: 女性上官を「sir」と呼んでいる例を以下に掲げる(順不同)。
- TNG第7シーズン"THINE OWN SELF"(邦題:記憶喪失のアンドロイド)
トロイが中佐に昇進したとき、データに「Sir と呼びなさい」と言っている。
- MOV"STAR TREK II: THE WRATH OF KHAN"(邦題:スター・トレックII カーンの逆襲)
サービック大尉のことを"Mr. Saavik"と呼んでいる。"sir"と呼ぶのと同様の事例である。
- DS9第7シーズン"PRODIGAL DAUGHTER"(邦題:崩れゆく家族の肖像)
オブライエンがエズリに対して"Yes, sir."と言っている
- DS9第1シーズン"EMISSARY"(邦題:聖なる神殿の謎)
ベシアがキラに対して"Yes, sir."と言っている。
- TNG第7シーズン"ALL GOOD THINGS..."(邦題:永遠への旅)
ピカードがクラッシャーに"Yes, sir."と言っている。
- DSC第1シーズン"DESPITE YOURSELF"(邦題:我の意志にあらず)
ブリッジ士官がバーナムに"With pleasure, sir."と言っている。
- LD第1シーズン"CRISIS POINT"(邦題:クライシス・ポイント)
ブリッジ士官がフリーマンに"Sir."と言っている。
- LD第2シーズン"STRANGE ENERGIES"(邦題:奇妙なエネルギー)
ランサムがフリーマンに"Yes, sir."と言っている。
- LD第2シーズン"I, EXCRETUS"(邦題:セリトスクルーの実力テスト)
- 演習中のマリナー艦長(役)にランサムが"Yes, sir."と言っている
- テンディがフリーマンに"Yes, sir."と言っている
- LD第2シーズン"WEJ DUJ"(邦題:wej Duj)
シャックスがフリーマンに"Yes, sir."と言っている
- SNW第1シーズン"ALL THOSE WHO WANDER"(邦題:さまよえる者たち)
ウフーラがオルテガスに"Permission to speak freely, sir?"と言っている。
- SNW第2シーズン"AMONG THE LOTUS EATERS"(邦題:ロトパゴスの中で)
ウフーラがバテルに"the Cayuga's hailing you, sir." と言っている。
- SNW第2シーズン"LOST IN TRANSLATION"(邦題:ロスト・イン・トランスレーション)
部下がウーナに"Yes, sir." と言っている。
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惑星の呼称
- 例えばPentath IIIはペンタス星系第3惑星のコトで、ペンタス3号星と呼ばれる。ただ、DS9ではそのままペンタスIII(スリー)と吹替えている。TNG(ひいてはTOS)を踏襲しろってば。
- 余談ながら、『STAR
TREK STAR CHARTS』によれば、我々の太陽系は「Sol System」となっており、地球は本来Sol
III(ソル3号星)と呼ばれるべきなのだ。しかし、劇中ではやはり「the Earth(地球)」と呼ばれている。これについては、惑星連邦の登録名称がSol
IIIで、本来はthe Earthである、といったところだろうか。(「Japan」と「日本」みたいなモン?)
追記: DSC"WILL YOU TAKE MY HAND?"(邦題:新たなる旅立ち)で、ついに 'Sol System' の言及があった(訳出されていないが)。
追記: PIC"DISENGAGE"(邦題:撤収)でも言及。しかしてその吹替は.. 「ソルシステム」... (絶句)
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種族の呼称
- 劇中原則的には、国(母星)の名前に「人(じん)」をつけている。当たり前のように思われるかもしれないが、これはナカナカ難しい。これは劇中では、例えて言えば「アメリカ人」は「American」と呼ばれているため。
- つまり、仮に「Thorian」と出てきたら、単純に「ソリアン人」とするのは誤りであり、母星の名前を確認する必要がある(単に「ソリアン」とすれば一応OKだが... でも普通の海外ドラマで「彼はアメリカンです」なんて吹替えがあったらヘンだと思うでしょ?)。
- しかし、惑星クロノスを母星としていても「クリンゴン人」だったり、ロミュラスを母星とする「ロミュラン人」がいたりする。まぁ、この両者は『訳したモン勝ちの法則』に基づく例外と考えてもイイかもしれない。新しく登場した種族などには、原則を適用すべきだろう。
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物質名(1)
- ST架空の物質名は「〜イウム」とすべき(例:ダイリチウム)。英語の音をそのまま拾うと、「calcium(カルシウム)」を「カルシアム」とするようなヘンなことになる。
- なお、「〜ティウム」「〜ディウム」という呼称は、「〜イウム」には準じているものの、やはり違うと思う。ここはやはり「〜チウム」「〜ジウム」が適当ではなかろうか(そして音読時は「〜チューム」「〜ジューム」)。
- また、実在の物質はちゃんと訳しましょう。調べもしないで機械的にカタカナ化してるとハジをかきますゼ?
余談: ふと、「ラチナム」ってのもこの原則からすると本来は「ラチニウム」となるかといぶかったが、latinumであってlatiniumでないのでコレにはあたらんワケだ。ほっ。
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物質名(2)
- 物質名の化学的記法として、ギリシア語の接頭語をつけることが多い。di:2、tri:3、tetra:4、penta:5、などである。そして日本ではギリシア語の発音に準じ、「di」は「ジ」、「tri」は「トリ」と読む(高校の化学でも習うハズだ)。
- よって、ST7で「トライリチウム」と吹替えられていた物質は、本来「トリリチウム」が正しい。これも英語の音をそのまま拾えない例である(tricoderの先例もある)。なお、関連してST辞典D項目「ダイリチウム」も参照のこと。
- 【番外編】 翻訳スタッフの弁
- ここで、少々趣を違えることは承知だが、スタッフ側の意見を見てみよう。なんつーか、どうも素直に頷けないことばっかおっしゃってますナ(^^)。
参考文献: 「スタートレックへの誘い 僕たちのスタートレック大研究」(安斎レオ著 ジャパン・ミックス刊)
第6章 トーキングスタートレック
著者である安斎氏が、元東北新社所属のディレクター戸田清二郎氏にインタビューしている。日本語版製作についての裏話などについてだ。ナカナカ貴重な資料ではある。
- カタカナ用語
「そもそも、このTNGってカタカナ用語が多いじゃないですか。それをわかりやすくしちゃうと、このSTのもってるリアリズムがなくなっちゃう。といって、それをそのまま言っちゃうと何が何やらさっぱりわからん。でもこれはわからないことに意義があるんだろうって捉えてやってもらいました。
」
→オオスジ同感。ただし、だからといって思考停止的カタカナ化はプロとして失格だと思う。
- 前シリーズの表現が「幼稚」?
「あと“副長”っていう呼び方にしろ(中略)あえて日本語に置き換えようとするのは(中略)幼稚な言い方なんです。(中略)前のシリーズとの互換性もあるんでしかたなくやったんです。」
→「しかたなく」だとぉ?「幼稚」だとぉ?その感覚には激しく異議を申し立てる!
- わかってて...
「DS9を始めるに当たっては、カタカナが多くなってもなるべく元の言葉でやるようにしました。だから主任じゃなくてチーフ。保安も都合上使うこともありますが、なるべくセキュリティっていってます。」
→出た〜「セキュリティ」!そうかー、DS9初期のアレはワザとだったのかー。私見だが、「チーフ」はOK。「セキュリティ」はNG。
→「前のシリーズとの互換性」を保持すべきという認識は持ちながら、敢てその路線を捨てた...
あのなー、バリバリにカタカナばっかのSFドラマだったら他にいくらでもあるだろう?なんもSTでやらんでも、そっちでやってりゃいいやん!